2019年9月16日(月)

合理的選択 イツァーク・ギルボア著 経済学の様々な分野を眺望

2013/5/1付
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今、世の中はアベノミクスの話題で持ちきりだ。日銀は、異次元金融緩和によって人々にインフレ予想を形成し、景気を回復させるのだと言う。ところで、「人々が不確実な未来をどう予想するか」を研究する分野は意思決定理論と呼ばれる。著者ギルボアはこの分野のスーパースターである。とりわけ、人間の確率的推論について、新理論を切り開いたことで有名だ。

(松井彰彦訳、みすず書房・3200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(松井彰彦訳、みすず書房・3200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書はとても変わったアプローチをしている。経済学全体に通底する普遍的な「何か」をあぶり出そうと試みているからだ。物理学で言えば、「力」がそれにあたる。惑星にも熱にも電磁気にも原子にも共通するアイテムは「力」である。経済学では何だろう。著者はそれを「合理的選択」だと言う。本書はこのパラダイムをタケコプターにして飛び立ち、ミクロ経済学、社会選択理論、ゲーム理論など様々な分野を眺望していく。

経済学の普通の教科書では、「どう計算するか」は丁寧に教えるが、「なぜそう考えるか」は蔑(ないがし)ろにされている。だから、経済学に不要感や反感を抱く人が後を絶たない。本書はきっと、そういう人たちの印象を変えるだろう。人間の行動を理解するために経済学がどんなに努力を積み重ねているかを真摯に伝えているからだ。

真摯さとは正直さでもある。本書には、巷(ちまた)に溢(あふ)れる経済俗書のような断言口調は一切ない。経済学の限界を包み隠さず告白する。例えば、「(経済学は)他の厳密科学のような正確な数値予測を提供し損ねてきました」と言う。また、「マクロ経済学、金融、政治学、社会学等では多くの因果関係が特定できないままです」とも述べている。経済学はここまで進歩したという気概と、それでも社会を思うがままに操縦できるわけではない、という謙虚さとが交錯する。

数式はほとんど出てこず、平易な言葉とみごとな比喩で進められる。翻訳者の言葉の選び方も秀逸だ。素直な知的好奇心さえあれば誰でも読み通せるだろう。読了後、統計、確率、効用関数、戦略的関係といったアイテムに認識を新たにし、生まれ変わった読者には、もう一度経済学の教科書をひもといてみてほしい。

(帝京大学教授 小島寛之)

[日本経済新聞朝刊2013年4月28日付]

合理的選択

著者:イツァーク・ギルボア
出版:みすず書房
価格:3,360円(税込み)

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