春風伝 葉室麟著 高杉晋作の詩魂感じる

2013/4/24付
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(新潮社・2000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

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2月にも葉室作品を扱ったのだが、何しろ出来がよいので仕方ない。

さて、阪東妻三郎主演の映画に「狼火(のろし)は上海に揚る」という作品がある。所謂(いわゆる)国策映画なのだが、上海に渡った高杉晋作が夷敵(いてき)の脅威を知るというもので、私の知る限り、上海での晋作を扱った映画はこれしかない。

だが、そんな国策映画のモチーフが、戦後、晋作を描いた多くの小説の中で、彼が革命を起こそうとする動機づけとなっているのは皮肉なことだ。晋作は列強と闘う民族の姿を目の当たりにしてその天才を発揮する。本作は数ある晋作を描いた作品の中でも、この上海体験に最も多く比重を費やした作品で、それだけに説得力は抜群だ。

その颯爽(さっそう)たる快男児ぶりを描きつつも、奇兵隊の内部の差別意識なども活写。それでも晋作の詩魂が間違いなく伝わってくる。さらに晋作をめぐる女性――一人は作者が創造した扈(こ)三娘(さんじょう)(水滸伝)にも似た上海の女闘士美玲。もう一人はお馴染(なじ)みの愛人うのだが、これほど魅力的な描き方ははじめて。

読後、若くして死す者はそれだけ神に愛されているのだと、そんな感慨が湧いてくる傑作だ。

★★★★★

(文芸評論家 縄田一男)

[日本経済新聞夕刊2013年4月24日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

春風伝

著者:葉室 麟
出版:新潮社
価格:2,100円(税込み)

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