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脳科学がビジネスを変える 萩原一平著

脳科学を経営に生かす必要性示す

本書は、脳科学を企業活動・ビジネスに活用する必要性と、すでに活用している内外企業の動向の全体像を示す。日本の遅れを指摘し、今後の方向を明らかにする。脳科学は近年、強力な画像処理機器の開発に伴って、実際の脳の機能の観察が可能となり、人間の行動全般の解明に向かっている。ビジネスへの影響について、本書は格好の道案内になる。

(日本経済新聞出版社・2000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書が分析を進めるなかで明らかにするいくつかの点をとりあげてみよう。企業経営にとって最大の課題は、顧客や従業員らがどう行動するかを的確にとらえることであるが、人々の行動を決めている脳の機能は、個人間で異なり、また、性、人種などによっても差異がある。これらの解明により、顧客へのアピールの方法からグローバリゼーションが進むなかでの人事・組織制度のあり方まで、脳科学の知見を活用できる。

例えば、最近の電気・情報機器では、多くの人があまり使わない複雑な機能を売り物にする傾向がみられるが、顧客は、財・サービスの技術力である「ハードパワー」とともに、脳の欲求を満たす吸引力である「ソフトパワー」を求めるので、脳の反応を分析すると、有用性の低い複雑な機能はむしろ不快な情動を誘因する恐れがあるという。

また、人の意思決定は、多くの場合、あらかじめ理性的に考えてというより、無意識のうちに行われ、錯覚、損失回避や自信過剰などのバイアス、ヒューリスティックス(近道の発想)にさらされるが、この時の脳の情報処理プロセスの理解こそ経営にとってカギであると指摘する。

脳科学の活用が望ましいのはビジネスだけにとどまらない。高齢者の脳構造の分析なしに望ましい高齢化社会を構築できないし、経済政策の論議においても、人々の期待の形成(将来予測)がどのようになされ、マインドに影響を与えるメカニズムはどのようなものかといった情動・心理面の分析なしに、ただ、人々の合理的行動を前提とする机上の理論を適用しても空虚であろう。本書はビジネス面に焦点を当てるが、こうした観点からも多くの分野の人々に一読を勧められる内容といえる。

(学習院大学名誉教授 奥村洋彦)

[日本経済新聞朝刊2013年4月14日付]

脳科学がビジネスを変える―ニューロ・イノベーションへの挑戦

著者:萩原 一平
出版:日本経済新聞出版社
価格:2,100円(税込み)

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