2019年5月24日(金)

元気な社会へ新たな雇用ルールを

2013/4/8付
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企業の活力はどうすれば生まれるか。人材の新陳代謝は欠かせない。目的を達成するために最適な人材で組織を構成し、状況の変化にあわせて臨機応変にメンバーを入れ替える。それで創造的な製品やサービスを生みだしている米シリコンバレー企業は典型例だ。

米国では企業の裁量で労働者との雇用契約を打ち切りやすい。競争力を失った事業部門の人員は思い切って削減される。しかし対象になった人たちは別の企業や産業に移り、成長力の落ちた分野の労働力が社会の中で再配置される。

課題多い解雇規制緩和

日本の企業経営者や学識者から、正社員の雇用契約を柔軟に解除できるよう制度の見直しを求める声が出てきたのも、雇用の流動性を高めて社会を活性化する必要があるとの問題意識からだ。

日本では1970年代に使用者の解雇権の乱用を禁止する判例法理が確立した。現在は2007年制定の労働契約法にこの考え方が明文化されている。

雇用契約が解除できるのは就労が難しいほど労働者の健康状態が悪いときや、希望退職募集など労務コストの削減を進めても経営が立ち行かなくなる恐れがある場合など、一部に限られる。

こうした現状を変えたいと政府の産業競争力会議で民間議員から提案があった。解雇権乱用を禁じた労働契約法の条文を見直すとともに、どんな場合は解雇を禁止するか規定を設けたうえで、使用者は自らの意思で正社員の雇用契約を打ち切ることができると同法に明記するよう求めている。

経済・社会の変化にあわせ、雇用のルールや慣行も変えていくことはもちろん重要だ。解雇規制もそれが日本の成長力をそいでいるなら、見直す必要がある。

競争力の落ちた企業に人材が抱え込まれれば産業構造改革が進まず、本人のためにもならない。人口が減るなかでは一人ひとりの労働力が貴重だ。環境・エネルギーや医療・介護など成長分野への人の移動を促すため、障害になる規制は取り払わなければならない。

ただし、これまでは長期の雇用が当たり前と思われてきたため、ルールの変更は影響が大きい。

企業は社員に長期雇用を約束するのと引き換えに転勤や残業を強いてきたが、こうした日本的な経営は見直しを迫られる。雇用契約を打ち切られた人の再就職を社会全体で助ける仕組みも、あわせて整えることが不可欠だ。

欧米企業は一般に職務内容をあらかじめ決めて雇用契約を結ぶが、日本の正社員は会社の指示通りに部署を移り、「なんでもやる」使い勝手の良い労働力だ。会社への忠誠心も高い。いずれも事実上の雇用保障があるためだ。

雇用契約が解除されやすくなれば、社員はこれまでの使われ方に疑問を持とう。会社にとって便利な正社員の働き方を見直すなど、雇用のあり方を根本から改める覚悟を経営者は問われる。

再就職支援は課題が山積している。新しい仕事への橋渡しをする職業紹介事業や必要な技能を身につけさせる職業訓練は、民間に競わせた方が効率的になり質も高まる。官が中心に担っている現状を改め、民間開放を進める規制改革を強力に進める必要がある。

労働市場づくりを急げ

失業者の安全網も工夫の余地が大きい。生活費を支給しながら職業訓練を施すなど制度は多彩だが、利用が伸び悩んでいる例もある。限られた予算で効果をあげるよう制度の再設計が求められる。

大切なのは、別の仕事に柔軟に移れる労働市場を育てることだ。新しい雇用のかたちをつくることも必要だろう。産業競争力会議や規制改革会議では、職務内容や勤務地を限定し、これまでの正社員より給与水準などを下げた「準正社員」ともいえる形態が提案されている。雇用の受け皿を広げるため多面的な取り組みが要る。

裁判で解雇無効の判決が出た場合に、もとの職場に戻らずに金銭補償を受けて退職できる制度をつくるか否かについても、どうすれば本人に働く場を用意できるかという視点で考えたい。

現実には人間関係がこじれて職場復帰は難しい。和解手続きにより金銭で解決し、退職する例が今も多い。安定した額をもらい、別の仕事で力を発揮するために、金銭補償は制度化すべきだろう。

社員が一つの会社に定年まで勤めることを前提に成り立ってきた社会を変えていこうとすれば、さまざまな面できしみが生じる。労使の合意形成も重要になる。雇用契約のルールを改めるための条件を着実に整えていきたい。

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