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統計学が最強の学問である 西内啓著

基礎概念から応用まで語る

一般に統計学の教科書というと、初心者を春眠に誘う妙薬であろう。本書は、冒頭から「判断を誤れば10万人の命が失われる意思決定に最善最速の正解を出す武器」として統計学を語る著者の使命感にあふれ、そのたぐいではない。

(ダイヤモンド社・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

「統計学の手法のほとんどは、データ間の関連性を示し、それが誤差と呼べる範囲なのかを検定する、広義の回帰分析である」とあるように、本書では、現代統計学の「幹」を構成する要素が実用面から重み付けされ、ビジネス分野の逸話とともに語られている点で、初心者にとっても有用だ。

英国の婦人らによる、ミルクを紅茶のカップに注ぐ順番による味の相違という、一見どうでもよい命題を検証する統計学者、フィッシャーの話は、ほほえましい。ほかにも、「60億円儲かる裏ワザ」「ミシンを2台買ったら1割引き」「1億5000万ドルを稼いだクレーム対応」など、統計学の基礎概念が実例とともに巧妙に語られる。ビジネス書の定番である「おむつとビールを同時に買う男性が多い」という話も登場する。

「ビッグデータ狂想曲」が奏でられる昨今、本書は、投資効果の視点から、適切なサンプリング調査を軸とする現代の統計学手法による成果との比較の重要性を説く。ビッグデータの導入に対して冷静な態度を促すなど企業経営への配慮もきめ細かい。

一方、サンプル数を1万増やしても標準誤差は0.3%しか改善しないなどの指摘は、ある程度、統計学をマスターした者が陥りやすいワナを示し、記述に深みをもたらしている。「幹」に続き、本書の後半では、「枝」の部分として、統計学の応用をめぐる考え方の違いにも大胆に切り込む。

最終章では、実用面に話題を転じ、エビデンス(科学的な根拠)探索のための手順が具体的に解説され、学究的な配慮にも事欠かない。最強の武器を使いこなす多くの統計家の出現を願う著者は、あるエコノミストの発言を引用している。「これからの10年で最もセクシーな職業は統計家だろう」。職業柄、統計を扱う者として同感である。

(野村総合研究所上級コンサルタント 秋月将太郎)

[日本経済新聞朝刊2013年4月7日付]

統計学が最強の学問である

著者:西内 啓
出版:ダイヤモンド社
価格:1,680円(税込み)

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