春秋 - 日本経済新聞
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春秋

土地の守り神をまつった社を取り囲むようにして、木々がうっそうと生い茂る。日本は各地に鎮守の森が残っている。終戦の翌年に日銀総裁に就任した一万田尚登氏も、その静かで落ち着いた様子にひかれた一人だ。「日銀は鎮守の森のようにありたい」と言っていた。

▼戦後のインフレを抑え込み、産業復興の資金手当てにも力を入れたのが一万田氏だ。GHQ(連合国軍総司令部)から一目置かれ、権勢をふるい、言動を経営者は注視した。ただ本人は「日銀が注目されるのは経済が悪いときだ。目立たないのが一番」と考えていたという。それで「鎮守の森」になぞらえてみたのだろう。

▼黒田東彦新総裁が率いる日銀が本格的に動きだした。世の中に出回るお金を増やし、企業や家庭が借りやすくする金融緩和では新しい手法を打ち出し、市場は大きく反応した。デフレ脱却へ向けて日銀が打つ手は各国の経済に影響を与え、黒田氏の発言には世界の耳目が集まる。「静かに目立たず」とは、とてもいかない。

▼植物生態学者、宮脇昭氏の著書「鎮守の森」によれば、古くからその土地に根を張ってきた木々は災害に強く、地震や台風でも倒れない。日銀が頼りにされるのも、今が苦境脱出への正念場だからだろう。企業がもうける力をもっとつけて、日銀が「鎮守の森」のように、後ろでどっしり構えていればいい日はいつ来るか。

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