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春秋

新しい歌舞伎座は和風の建物と高層ビルを一体化した造りである。どんな風に仕上がるか。伝統の品格が損なわれないか。ひそかに心配していた方も建築の妙味に感心したのではないか。空に伸びる縦の直線と、瓦屋根のなだらかな横の曲線が、美しく溶けあっている。

▼設計した建築家の隈研吾さんが「いばった建築は嫌い」と話していた。建物は自己主張せずに、内にある空間と人を黙って包み込む。歌舞伎という芸が輝いてこそ、その容器である建築物の存在感も高まるに違いない。大企業が巨費を投じて東京の中心に築いた新名所である。強い磁力で世界中から人を引き寄せてほしい。

▼もう一つの古典芸能、能楽の隠れた名所が広島県の福山市にある。喜多流シテ方の大島家が個人で建てた大島能楽堂だ。予算も敷地もぎりぎりなので、廃業した映画館から客席を譲り受けたり、階段の上に楽屋を設けたり、苦労が多かったそうだ。住宅街の普通の一軒家に見えるが、玄関をくぐると中に立派な舞台がある。

▼その質素な建物に次々と人が訪れてくる。能の公演だけでなく、大人向けの稽古や子供の教室もある。海外から見学も多い。四代目の大島政允さんは「維持するのが大変」と言うが、文化の拠点を守るのが楽しそうだ。この町では能楽への敷居がずいぶん低い。「いばった建築」の対極にあるような建物の力かもしれない。

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