春秋

2013/3/31付
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むかしむかし、体のとても大きな男がおった。丘の上にいながら、海のはまぐりを採ることができたほどじゃった。身を食べた後で捨てた貝殻は積もり積もって山のようになった。そこは大櫛の岡と名づけられたそうな――。むかしばなし風に訳せばこんなところか。

▼8世紀の前半に編まれたという「常陸国風土記」が記す巨人伝説の一節だ。水戸市にある大串貝塚の成り立ちを説明するのに、古代の人たちは奔放な想像力を働かせたのだろう。近代的な考古学によれば大串貝塚ができたのは今から5000年以上も前。稲作が伝わるはるか昔から、この列島の人たちは貝を食べてきた。

▼その大串貝塚から100キロあまり北の海辺で、貝たちに異変が起きている。北海道より南の海岸ならごく普通に見かけるイボニシという巻き貝が、福島第1原発の周辺で姿を消したそうだ。原発事故による放射能汚染と関係があるのか、どうか。研究が進まないとはっきりしないらしいが、気になるニュースではある。

▼もともとイボニシは、ヒトの経済活動が海にもたらした見えにくい変化を浮き彫りにした生き物として有名だ。船の塗料に含まれていた有機スズ化合物のためにメスがオス化するという現象が地球規模で観測され、有機スズ塗料は世界中の船で使用禁止になった。新たな警告をこの小さな生き物が発しているのだろうか。

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