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糖尿病治療、初期に教育入院 食事や運動法を指導

日経実力病院調査2012

 糖尿病の患者は推定で約890万人、予備軍も含めると約2210万人に上る。血糖値を下げるインスリンを分泌できない「1型」を除くと、ほとんどが生活習慣の乱れによる「2型」だ。日本経済新聞社の実力病院調査によると、2型の治療では、食事、運動、薬物の各療法を学ばせる「教育入院」や、眼科などと連携して関連疾患の予防に力を入れる取り組みが目立った。

今回の調査で「手術なし」は教育入院、「手術あり」は人工透析を伴う入院患者が中心となる。2011年4月から12年3月に「手術なし」が456例と全国で2番目に多かった関西電力病院(大阪市福島区)。糖尿病の専門医と管理栄養士、理学療法士らが連携して患者の生活習慣の見直しを指導している。

カンバセーションマップを使い糖尿病の仕組みを学ぶ(大阪市福島区)

今月中旬、同病院に教育入院した男性は「近所の診療所でたまたま血液検査をしたところ、血糖が異常に高く糖尿病だと分かった。『即入院が必要』と言われて驚いた」と話す。目がぼやける感じはあったものの、糖尿病という自覚がなく食事などの節制は全くしていなかったという。

男性は、治療に大切な自己管理(療養)を指導する療養指導士が病院内で開く教育講座に参加。指導士は机の上に糖尿病になる仕組みを分かりやすいイラストで描いた「カンバセーションマップ」を広げ、机を囲んで座った患者らと対話しながら、糖尿病にはインスリンが十分にできない状態と、インスリンが効きにくい状態があることなどを説明した。

教育入院は短期間の2泊3日が中心。同病院では10人以下の少人数の講座で、管理栄養士が筋肉を作るための食事、理学療法士がゴムチューブを用いた筋力トレーニングなども指導している。

糖尿病が専門の清野裕院長は「初期の患者には食事の取り方、運動方法、そして合併症などを短期の入院で徹底的に教える」と話す。その後は患者が通院しやすい地域の診療所などで治療を続ける。数カ月に一度、合併症の検査などで同病院に来院してもらい、「糖尿病連携手帳」で患者の情報を共有している。

清野院長によると、2型の患者の薬物療法では「インクレチン関連薬」が主流という。膵臓(すいぞう)のβ細胞に働き掛けて、血糖値を下げるインスリンの分泌を促す。血糖値上昇時のみインスリンの分泌を促すため、低血糖が起きにくい。

特に錠剤の「DPP-4阻害薬」は継続して服用しやすく、清野院長は「軽度な患者にとっては第一選択となるだろう」と高く評価する。重度の患者には、注射による「GLP-1受容体作動薬」で食欲減退の効果も期待できるという。

インクレチン関連薬以外では、3月に発売されたインスリン製剤「デグルデク」(一般名)が1日1回の注射で24時間の効果が期待できる。安定して効き、夜間に起きやすい重症の低血糖になりにくい。

清野院長は「初期に大量のインスリンを注射する強化療法もある」と話す。2~3カ月間、1日にインスリンを複数回打って血糖値を下げると、膵臓のβ細胞の環境が改善されてインスリンの分泌機能が回復することもあるからだ。「血糖が下がれば経口薬や1日1度のインスリン療法に切り替えられる場合が多い」(清野院長)という。

今回の調査で「手術なし」の件数が481例と全国で最も多かった東京女子医大病院(東京・新宿)は大学病院で初めて糖尿病センターを設置。合併症が出やすい目の治療のため、センター内に糖尿病眼科を独立して設け糖尿病内科と連携している。内科にはこのほか、神経障害、肥満治療、腎臓病、足の病変、心血管、妊娠糖尿病などの専門チームがあり、合併症などに幅広く対応している。

日本糖尿病学会は、初診時の治療の目安となり、過去1~2カ月の血糖値の指標である「ヘモグロビンA1c」(国際標準値)が6.9%未満を「良」、6.2%未満を「優」としている。同病院では網膜症の手術や人工透析、足の壊疽(えそ)など重い合併症を抱える患者も目立ち、初診時は10%を超える人も多い。「患者平均は7%と良好にコントロールできている」(内潟安子糖尿病センター長)

患者は大学病院の整形外科や腎臓外科などで合併症の手術を受ける場合でも、糖尿病センターの医師が主治医のままで、手術前後でもしっかりと糖尿病の治療を継続できるという。センターには糖尿病を専門とする看護師もいるため、こまやかなケアができる。

糖尿病はいったん発症すると治すことが難しく一生つきあう病気だ。病気の発症の仕組みも生活習慣に遺伝的要因が複雑にからみあうなど、患者ごとに異なることも多い。昨年秋から、臨床研究の一環で、同センターで治療する患者を対象にした大規模な診療実態調査を始めた。生涯にわたっって患者を追跡し、がんや心臓疾患など他の病気との関係や治療薬とその効果を調べ、治療方針にフィードバックを目指す。

◇            ◇

<インスリン治療遅れがち 医師側、着手ためらう傾向>

天理よろづ相談所病院(奈良県天理市)の石井均副院長は糖尿病患者を治療している全国の医師約200人に対してインスリン治療を始める目安を調査した結果、「医師は患者にインスリンを打つことにためらいがある」と指摘する。

例えば医師自身が糖尿病の患者になった場合にインスリン治療を開始する目安はヘモグロビンA1cの値で平均8.1%。だが実際に自分の患者にインスリン治療をすすめる値は平均9.6%で、医師はより重症化した段階で患者にインスリン治療を勧める傾向があるという。

石井副院長は「患者もインスリン治療に対して、悪い印象を抱きがちで、医師が導入を勧めても説得するのが難しいことがある」と指摘。このため「医師が導入を勧めるのにためらい、結果として決断が遅れる」とみる。

インスリン注射が必要な患者約1400人を対象に、決められた回数を守って注射できているかを調査したところ、規則正しく注射をしている人ほどヘモグロビンA1cの値が低く、重症化を防げていた。石井副院長は「医師が患者ときちんと対話して適切なタイミングでインスリン治療を始め、患者も決められた通りに毎日注射することが大切。患者自身がやらないと糖尿病治療は絶対にうまくいかない」と訴えている。

<調査概要> 調査は(1)治療患者数(診療実績)(2)医療の質や患者サービス(運営体制)(3)医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)――の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報をインターネット上の公開データから抽出して実施した。
 ▼診療実績 厚生労働省が2012年8月に公開した11年4月~12年3月の症例数(退院患者数)とした。病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入・準備中の全国1634病院が対象。病名と手術の有無で症例数を比べた。
 ▼運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」が病院の依頼を受け、医療の質や安全管理、患者サービスなどを審査した結果を100点満点に換算した。審査結果を公開している認定病院は約2千病院(12年10月10日時点)。
 ▼施設体制 医療従事者の配置、医療機器や専用治療室など、厚労省が定めた「診療報酬施設基準」を満たしたとして各病院が届け出た項目を比べた。
[日本経済新聞夕刊2013年3月28日付]

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