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春秋

お人よしの道具屋、甚兵衛さんが仕入れたぼろ太鼓が300両で売れたという「火焔(かえん)太鼓」か。はたまた、清貧に生きる浪人がふだん使っていた汚い器に300両の値がついた「井戸の茶碗(ちゃわん)」か。落語の国のおとぎ話を地でいくできごとがニューヨークであったそうだ。

▼引っ越しのときなど、かの地では不用品を処分するガレージセールというのをよくやる。6年前、たまたまのぞいた人が幸運の女神の前髪をつかんだのだろう。茶碗を3ドルで買った。それがじつは中国・北宋時代の白磁の逸品。先の競売で222万5千ドルで落札されたという。ざっと300円が2億円に化けたことになる。

▼「火焔太鼓」を十八番にした古今亭志ん生は「世に二つとない」でなく「世に二つという」名器だとやっていた。変な物言いだと気になっていたのだが、この白磁と似た大きさ、柄を持つ同時代の器はロンドンの大英博物館にある一つしか確認できていないと報道されている。とすると、まさに世に二つという名器である。

▼作家の河野多恵子さんはニューヨークにいたころ、今回の競売があったサザビーズに時々行った、と随筆に記している。にぎやかでせわしい競りの様子も面白いが、見ていて安い高いの私の感覚はおかしくなった、という箇所になるほどと思った。机の湯飲みをもう一度眺めてみる……までもない。おとぎ話とは縁がない。

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