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TPP交渉 「守る」から「築く」へ

安倍晋三首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明した。国内にくすぶる保護主義の声を抑えて、日本経済の開放と改革にカジを切った首相の決断を評価したい。

人口が減る日本が将来にわたり経済成長を続けるためには、世界に打って出なければならない。米国と連携を深め、世界の成長の中心となった東アジアと結合を強めてこそ、日本は本来の力を発揮できるようになる。

日本の国益とは何か

TPPは、そのための最も強力な枠組みである。もちろん制度や商慣行がバラバラの国々を束ねて共通の通商秩序を描く交渉は、簡単ではない。各国の複雑な利害を乗り越えて協定をつくる強い意志と実行力が要る。

米国の推進力は欠かせない。だが、米国の腕力だけで成し遂げられる仕事でもない。巨大な米国が東南アジアや中南米の小国に対して一方的に要求を突きつけるだけでは、信頼に基づく連携の輪は広がっていかないだろう。

高い水準の自由化を目指すTPPの理念を日米が共有し、新興国に働きかけなければ、各国の歩みは加速しない。アジアの一員である日本が加わり、はじめてTPPは21世紀型の新しい貿易・投資ルールの「ひな型」となる。日米が同盟の絆を強めて足並みをそろえ、TPPを動かす双発エンジンとなるべきだ。

安倍首相は記者会見で、その覚悟を示した。だが自民党内の動きを見るかぎり不安も残る。国益という大義名分の下で、関税撤廃を免れる「聖域」の議論ばかり目立つからだ。内向きの発想で、競争力が弱いまま農業を保護し続けるのが国益ではないはずだ。

日本経済の発展を真剣に考えるなら、外に向かい目を開かなければならない。工業製品だけでなく農産物を含む日本の産品と、日本の人材、投資資金が自由に動ける舞台をつくることこそが国益である。発想を「守る」から「築く」に切り替えるときではないか。

遅れて交渉に加わる日本が不利な条件を課されると心配する声がある。日本の参加で合意が遅れるとの見方もある。安倍首相は万全の交渉体制を整え、各国との意思疎通を密にして、これらの疑問にこたえる必要がある。

交渉の焦点は、モノの関税撤廃だけではない。知的財産権、技術の基準・認証、投資、国有企業の改革、サービス貿易、競争政策、環境、労働など、さまざまな分野がある。いずれも、現在の通商秩序の土台である世界貿易機関(WTO)の協定に、十分に盛り込まれていない領域だ。

日本は駆け足で追いつき、これらのルール策定の作業に一日も早く参画しなければならない。日本にとって関税撤廃による輸出拡大の経済効果は大きいが、新領域のルールづくりには、それ以上の大局的な意味があるからだ。

TPPへの取り組みで、安倍政権が念頭に置くべき国際情勢は、中国の台頭である。中国は経済と軍事の両面で膨張を続け、東アジア各国への影響力を強めている。国有企業による市場支配や、レアアースをはじめとする資源の輸出規制など、他国との共存共栄よりも自国の利益を優先する「国家資本主義」が際立っている。

ルール大競争時代に

中国を代表格とする新興国の独自路線は、日米欧の先進国が築いてきた自由貿易体制を乱しかねない。だが、18年前に発効した現行のWTO協定では、こうした身勝手な政策を縛ることができない。

有志国が高い水準の通商秩序を築き、そのルールの枠組みに、将来的に中国も招き入れるのが、TPPの大きな目標である。何よりも日本の活躍の舞台である東アジア地域の安定と秩序を築かなければ、日本の国益は守れない。

日本の動きがテコとなり、欧州連合(EU)は6月に米国と経済連携交渉に入る。日本とEUの交渉も4月中に始まる見通しだ。同時期に始まる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)には、中国が熱意をあらわにしている。

21カ国・地域によるサービス交渉も始動が近い。東南アジア諸国連合(ASEAN)は2年後の域内統合に向け、共通市場の設計を加速し、そのASEANに米国、EU、中国が急接近している。

いま世界は、ルールづくりの大競争時代に突入しつつある。「今がラストチャンス」と語った安倍首相の認識は正しい。出遅れた日本は、通商秩序の建設に貢献できるか。TPP交渉を前進させるためにも、安倍政権は国内改革に果敢に挑まなければならない。

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