2019年1月20日(日)

出雲と大和 村井康彦著 豊かな古代世界をさぐる旅

2013/3/13付
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銅剣358本が出土した荒神谷遺跡、銅鐸(どうたく)39個が埋納されていた加茂岩倉遺跡、時代は下るが巨木を3本束ねた直径3メートルもの「宇豆柱」が見つかった出雲大社境内遺跡など、超弩級(どきゅう)の発見が相次ぐ古代出雲。独自の勢力がいた、と認識される所以(ゆえん)である。しかし、それでも動かない「出雲勢力は所詮は大和朝廷に隷属していた」との通説に業を煮やした著者は、「古代の出雲世界とは何だったのか」の解を求めて、歴史探索の旅に出かける。

(岩波新書・840円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(岩波新書・840円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

各地の磐座祭祀(さいし)をたどり、神社を訪ねる。祭神を探っては神主の声を聞く。四隅突出墓とよばれる出雲独特の弥生墳墓や倭人伝の遺跡を踏査する。地元の伝承や地名を跡づける。そうした無数の細切れの歴史遍歴の軌跡を、『魏志倭人伝』『古事記』『日本書紀』といった各種文献の解釈をとおして、ひとつの体系にまとめあげる。

「通説・定説から自由であること」を目指した著者は、意を決して神話伝説のなかに分け入り、予断をもたずに古代の人びとの声を聞き、大国主神に象徴された、豊かな時間と空間の出雲世界にたどり着く。そして、三輪山の祭神・大物主神が出雲系の神で、出雲国造が朝廷に奏上した神賀詞(かむよごと)での「皇孫の命の近き守神」が出雲系の神々だったことなどから、出雲から大和への歴史の流れを解く。なかでも多くの読者をおおいに驚かすのが、邪馬台国や卑弥呼が『記紀』には一度も出てこない、したがって邪馬台国は大和朝廷の前身ではない、「邪馬台国は出雲勢力の立てたクニであった」との大胆な結論である。

古代史(文献史学)、考古学、民俗学などの諸学を縦横無尽に横断して、想像力をおおきく羽ばたかせた豊かな仮説には、いろいろな分野の研究から異論が出されるであろう。ことに、『記紀』の記述をそのまま史実とみて論をすすめたり、磐座祭祀を出雲の神々の特徴としたり、出雲王国はフォッサマグナが東限である、といった諸点などがそうである。しかし、それなどはじつに楽しそうに、かつ丹念に神話伝承の小径を歩き続けた著者の行動力の前には、霞(かす)んでしまいそうだ。等身大の歴史と対面する、これこそが醍醐味だからである。

(国立歴史民俗博物館教授 広瀬和雄)

[日本経済新聞朝刊2013年3月10日付]

出雲と大和――古代国家の原像をたずねて (岩波新書)

著者:村井 康彦.
出版:岩波書店
価格:882円(税込み)

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