採薬使佐平次 平谷美樹著
時代ミステリーの快作

これはもう嬉(うれ)しくなるような時代ミステリーの快作である。事件の発端は、大川で上がった御用聞きの手下の死体がビードロでつくられた昇降図(温度を測る道具)を持っていたことによる。
将軍吉宗は、紀州から連れて来た採薬使、実は全国を旅し、薬草等を採取しつつ、一方でお庭番を兼ねている佐平次らに事件の探索を命じる。
このはじめの二、三十頁(ページ)からもうゾクゾクする面白さに満ちているのだが、物語は、時代小説では何度も扱われてきた吉宗vs尾張宗春との確執を浮かび上がらせる。倹約を主張する吉宗と、規制を緩めることによって繁栄する、という尾張宗春の主張は、何やら現在の政治批判めくではないか。
それだけならありふれた話になってしまうが、ここからがストーリーテラー、平谷美樹の真骨頂だ。尾張側が、果たして箱根の湯で昇降図を用いて何をやっていたのか? 未読の方のために書けないが、このような尾張の謀略を享保の大飢饉(ききん)と平仄(ひょうそく)を合わせ、さらに現代の化学兵器と二重写しにした作品は、はじめてであると断言できる。
こんな面白い作品、シリーズ化を望むしかないだろう。
★★★★★
(文芸評論家 縄田一男)
[日本経済新聞夕刊2013年3月6日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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