春秋

2013/2/15付
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東京都心の神保町という街は独特の文化を持つ。古書店。大学。そして1つの映画館が街に人を呼ぶ。質の高い作品を単館公開する「ミニシアター」の草分け、岩波ホールだ。その総支配人を務めた高野悦子さんが83歳で亡くなった。穏やかな笑みと語り口を思い出す。

▼大手が見送った世界の名画を相次ぎヒットさせた。島で過ごす老姉妹の日々が静かな感動を誘う「八月の鯨」。混乱の中国で生きる女性を女性監督が描く「宋家の三姉妹」。文革が庶民にもたらす悲劇を知らしめた「芙蓉鎮」。人々の暮らし、悩みが国境を越え共感を呼ぶ。「文化の交流は世界の平和に役立つ」と信じた。

▼本来は監督志望だった。就職した映画会社では女性ゆえ希望かなわず、パリまで留学し演出を学ぶもののやはり駄目。仮の仕事のつもりで雑多な催しを開く岩波ホール総支配人になり、後に映画の上映を始める。「映画興行の素人」はアジアや女性監督の作品を手がけ、ミニシアターという新ビジネスを手探りで確立する。

▼映画界の変化で特筆すべきことに女性監督の台頭を挙げた。欧米、アジア、アフリカなどに後れをとっていた日本でも近年、女性監督の活躍がめざましい。男の描く女とはひと味違う女性像が、映画文化に厚みを加える。「(監督という)生みの親にはなれなくても、育ての親にはなれるはず」。自身の言葉通りに生きた。

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