2019年3月20日(水)

コモンウェルス(上・下) アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート著 他者との交わりが生む創造力

2013/2/13付
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かつて都市は工場が集積する場であった。今日、都市は情報の加工と意思決定の場となった。いまや都市が生み出しているのは有形のモノではなく無形のアイデアやデザインである。このことには大きな意味がある。有形物は使えば減るが、無形のアイデアはそうではない。むしろ使うほど多くのアイデアを生む。有形物は誰かの引いた設計図に従って、管理された生産ラインから生み出されるが、無形のアイデアは(革新的なものほどしばしば)むしろコミュニケーションのなかから予期せぬかたちで生み出される。つまり無形のアイデアは所有や管理という考え方にそぐわない性質があるのだ。

(水嶋一憲監訳、幾島幸子・古賀祥子訳、NHK出版・各1400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(水嶋一憲監訳、幾島幸子・古賀祥子訳、NHK出版・各1400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書の鍵概念である〈共(コモン)〉とは、このような所有にも管理にもそぐわないコミュニケーション的な生産性を指している。誰からともなく始めた活動が、次第に多くの人々を巻き込んだイベントとなり、コミュニティ全体の大きな魅力になっていくようなイメージを思い浮かべてもらいたい。この〈共(コモン)〉をいかに育むかが、いわば有形のモノから無形のコトへ価値の源泉がシフトした現代社会の本質的な課題であると本書は説く。私たちの生きる社会は、いまだその苗床であった工業都市の発想に縛られている。そこでは生産性を高める論理として所有と管理のふたつ、マクロに言えば市場と政府のふたつしか視野に入らない。だが、〈共(コモン)〉は市場に任せることによっても、政府に任せることによってもその生命力を損ねてしまう。〈共(コモン)〉の富はそれが真にひとびとに共有されることによってしか栄えないのだ。

著者らの主張は、本書に先立って書かれたベストセラー『〈帝国〉』、『マルチチュード』から一貫して、ひとが他者との交わりに開かれることで開花させる創造力への底抜けの楽観主義に根差している。そしてそのことによって知的創造が唯一の富の源泉となった世界のあるべき姿についての刺激的な思考実験を提供している。その意味で本書は、その左翼的言辞と哲学的修辞にもかかわらず、むしろビジネスの最前線でこそ読まれてほしいと私は思う。

(立命館大学教授 山下範久)

[日本経済新聞朝刊2013年2月10日付]

コモンウェルス(上)―<帝国>を超える革命論 (NHKブックス No.1199)

著者:アントニオ・ネグリ, マイケル・ハート.
出版:NHK出版
価格:1,470円(税込み)

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