セッシュウ! 中川織江著 日本人スターと妻の本格的評伝

2013/2/12付
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 日本初の国際的映画スター、チャプリンと並び称され、身長差を調節する木箱に乗ることを英語でセッシュウという……。様々な伝説が語り継がれてきた早川雪洲(せっしゅう)。この手の本は逸話の収集に終わることも多いのだが、本書は雪洲の戸籍からアメリカへの渡航記録まで徹底的に調べ上げ、初と言っていい本格的な評伝となっている。

(講談社・2500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
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(講談社・2500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 ここで明らかになるのは、雪洲の人生が、尋常ならざる「愛と憎」に彩られていたということだ。最初に成功を収めたサイレント映画「チート」では白人女性に焼きごてを押し当てる悪役を演じた。日本人移民に対する排斥運動がアメリカで盛り上がっていた時期だ。渦巻く憎悪の中にあって、その冷酷さがセクシーだと白人に愛されたのだ。だが日本人からは成功への称賛と同時に「悪者を演じて排日運動に加担する者」として売国奴扱いされ、「撲殺団」(!)がいくつも結成された。

 映画プロダクションを作り、成功すれば共同経営者から保険金をかけられて殺されそうになる。第2次大戦後、パリで絵を描いて食いつないでいたところ、雪洲のファンだったハンフリー・ボガートが探し出してくれ、映画「東京ジョー」で復活する。そして晩年ついに「戦場にかける橋」で日本人男優として初めてアカデミー賞候補となる……。時に著者の肉声も交差し、ワクワクしながら読み進められる。

 そしてこの本の特筆すべき点は、妻の鶴子にも紙数を割いていることだろう。鶴子はオッペケペー節の川上音二郎・貞奴の養子である。が、音二郎がツアー中に売り上げを持ち逃げされたため、鶴子はアメリカに置き去りにされてしまう。しかし美貌と屈託のない性格から映画女優として人気を得る。雪洲と結婚後は彼を支え、ついに世界スターへと押しあげた。むろん雪洲が巻き込まれた愛憎の渦も共に嘗(な)めることになる。雪洲がよそに作った子どもを3人も育てながら、決して雪洲の悪口を言わなかったという。彼女というケタ外れの大伽藍(がらん)があればこそ、雪洲という傑物は大いにその腕をふるうことができた……。そんな人間の機微にも触れた、詳細にして胸躍る良書である。

(作家 乗越たかお)

[日本経済新聞朝刊2013年2月10日付]

セッシュウ! 世界を魅了した日本人スター・早川雪洲

著者:中川 織江.
出版:講談社
価格:2,625円(税込み)

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