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イノベーション・オブ・ライフ C・M・クリステンセン、J・アルワース、K・ディロン著

経営学の理論で考える個人の人生

最高におもしろいので是非読んでもらいたい。この書評はそれで十分なぐらいだ。

(櫻井祐子訳、翔泳社・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

かつて一人の経営学者がビジネス界に彗星(すいせい)のごとくデビューした。彼の名前はクレイトン・クリステンセン。世界中の多くの実務家は彼のデビュー作『イノベーションのジレンマ』を貪り読んだ。本書は彼による最新作で、元となる論文はハーバード・ビジネス・レビューに掲載され、同誌の年間最優秀論文に与えられるマッキンゼー賞を受賞している。

今回、彼を含む共著者達は経営学の理論を企業でなく個人の生き方に当てはめている。卒業後5年ごとに開かれるハーバード・ビジネススクールでの同窓会。最初は出席率が高く誰もが仕事とプライベート両方で成功をおさめているように見える。ところが年を重ねるごとに、見かけは実業界で大成功を収めているようでも人生では多くの苦悩を抱える同級生があまりに多いことにクリステンセンは気づく。経営学修士(MBA)の学生時代、聡明(そうめい)で努力を惜しまず、家族思いだった人間も不幸な私生活、家庭の崩壊、仕事上の葛藤、犯罪行為といった問題に苦しむことになる。どこに落とし穴があったのか。それが著者の問題意識だ。

本書は理論が企業の問題だけでなく私生活のさまざまな問題に光明を投げかけてくれることを教えてくれる。例えば、著者は16歳の時、宗教上の理由から日曜に球技をしないと神に誓った。だから所属する大学のバスケットボール・チームの試合が日曜開催の時は出場しなかった。それが決勝戦であっても、だ。

「やむをえない事情なのだから、一度なら大丈夫」と周りは言ったが、誘惑に屈しなかった。人生はやむをえない事情の連続だからだ。著者はその決断を限界費用と総費用の概念を使い手際よく説明し、「自分が決めた主義を一〇〇%守るほうが、九八%守るよりたやすい」とわかりやすい言葉でまとめてくれている。

ハーバードの看板教授でありながら心臓発作、悪性腫瘍、脳梗塞に襲われ、よりよく生きる方策を探り続けている著者ゆえに一つ一つの言葉が深遠で説得力がある。

(神戸大学教授 小川進)

[日本経済新聞朝刊2013年2月10日付]

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

著者:クレイトン・M・クリステンセン, ジェームズ・アルワース, カレン・ディロン.
出版:翔泳社
価格:1,890円(税込み)

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