春秋

2013/2/7付
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40年以上昔になるが、子どものころ読んだ絵本のなかには、ゴリラを凶暴な野獣として描いているものがまだあった。密林から突然現れ、女性を小脇に抱え、歯をむき出して咆哮(ほうこう)する。極め付きが、戦いを前に立ち上がって胸を打ち鳴らす、あのドラミングの姿だった。

▼地道な研究の成果によって、今ではゴリラが知的で心穏やかな動物であることは広く知られている。ゴリラ研究の第一人者、京大教授の山極寿一さんと、ゴリラを描き続けている阿部知暁さんによる絵本「ゴリラが胸をたたくわけ」を開けば、家族で寄り添って、笑い、じゃれ合うゴリラの本当の姿に触れることができる。

▼ドラミングもかつて考えられていた戦いの宣言や挑発の手段ではなかったようだ。誤解が広がったのは映画「キングコング」の影響も大きいらしい。真の意味は胸をたたいて自己を主張し、衝突することなく平和のうちに互いが離れようという提案だとある。対立ではなく、縄張り争いなどを避けるための対話なのだろう。

▼さて、こちらはヒトの世界の話である。島をめぐるいさかいがますます緊迫の度を増している。自分たちの縄張りだと挑発や威嚇を受けたからといって、そのままやり返すのは決して得策ではあるまい。ここは万物の霊長の威厳にかけても、ゴリラのドラミングを上回る、高度でしたたかな対話力を発揮していかなければ。

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