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全国で200にも 文学賞、なぜ増えてるの?

からすけこのまえ芥川賞(あくたがわしょう)と直木賞(なおきしょう)が発表されたよね。ほかにも色々な文学賞の名前を聞くけど、賞ってたくさんあるのかな?
イチ子お姉さん 10年前と比べて1割以上増えてるそうよ。みんなの注目を集めるために、出版社などが新たな文学賞を立ちあげる例も多いわね。

本の販売低迷、関心引く

からすけ 日本にはどのくらいの数の文学賞があるの?

イチ子 芥川賞、直木賞のほかにも出版社や新聞社、自治体が設(もう)ける文学賞、推理小説(すいりしょうせつ)やSF、エッセーなどジャンルごとの文学賞、最近は書店員が投票で決める本屋大賞も有名ね。詩や短歌、俳句、童話や絵本の賞もあるわ。はっきりした数字はわからないけど、全国出版協会・出版科学研究所が把握(はあく)しているだけでも、漫画(まんが)を除(のぞ)いて200くらいあるそうよ。

からすけ そんなに!

イチ子 賞が増え始めたのは10~15年くらい前からみたいね。ちょうど本の販売額(はんばいがく)が下がり始めたころよ。本の販売額はピークの1990年代半ばには1兆円を超(こ)えていたけど、今は8000億円台にまで落ちてるわ。だから、出版社などが賞で注目を集め、少しでも本に関心を持つ人を増やすために文学賞を設ける動きが広がったの。金沢市の泉鏡花(いずみきょうか)文学賞など自治体が主催(しゅさい)する場合には、観光客(かんこうきゃく)を増やして地域(ちいき)を盛(も)り上げる目的もあるようよ。

からすけ みんな本を読まなくなったのかな?

イチ子 今はインターネットで簡単(かんたん)に情報(じょうほう)が手に入るし、テレビやゲームを楽しむ人も多いわ。景気(けいき)が悪くなると本を買うお金を節約(せつやく)しようという意識(いしき)も働くかもね。でも図書館の本の貸出数(かしだしすう)はここ10年で35%以上も伸(の)びてるの。本を安く買える中古書店を利用する人も多いから、本を読まなくなったわけではないと思うわ。

からすけ じゃあ賞を設けても本は売れないんじゃない?

イチ子 そんなことはないみたいよ。有名な賞を受賞すると、売れ行きは大きく伸びるらしいわ。特に芥川賞、直木賞、本屋大賞の3つの賞は受賞後は10万部近く売り上げが伸びるというデータもあるの。年に2回表彰(ひょうしょう)する芥川賞、直木賞を設けたのも本の売れ行きがよくない2月、8月の前に注目を集めて、掲載誌(けいさいし)や本を買ってもらおうという理由があったらしいわ。

からすけ どんな人のどんな作品が受賞するの?

イチ子 賞によって違うわ。すでに雑誌(ざっし)に掲載されたり、本になったりした作品を対象(たいしょう)にする賞もあるし、新しく書いて出版社などに送られてきた作品が対象の賞もあるのよ。対象となる作家も、これまで本を出したことのない新人や名前の知られた作家を表彰する賞もあるの。芥川賞、直木賞は日本で最も有名な文学賞だけど、「ノルウェイの森」や「1Q84」などで知られる村上春樹(むらかみはるき)さんはどちらも受賞していないわね。

有望な新人も続々誕生

からすけ 文学賞が増えると、作家にとっては励(はげ)みになるよね。

イチ子 そうね。たくさんの文学賞ができると、作品を評価(ひょうか)される機会も増えて、新たな作品を書く意欲(いよく)にもつながるわ。有望な新人もどんどん誕生(たんじょう)しているそうよ。賞の対象も広がって、表紙や挿絵(さしえ)にアニメ調のイラストなどを使った「ライトノベル」と呼ぶ新たなジャンルの小説も注目されるようになってきたわ。文学だけではなく、ビジネス書や実用書向けの賞も生まれているの。様々な賞を設けることで話題性も増すから、販売額の減少(げんしょう)に少しは歯止めをかけられるかもね。

からすけ それに受賞すれば、賞金ももらえるんだよね。

イチ子 そう。ほとんどの文学賞では副賞として賞金も出るの。賞によって額は違うけど、芥川賞と直木賞の場合、受賞者にはそれぞれ100万円が贈(おく)られるわ。推理小説を書く新人作家が応募(おうぼ)する日本推理作家協会主催の江戸川乱歩(えどがわらんぽ)賞では、1000万円が副賞として贈られるのよ。

からすけ すごい金額だね。それなら僕も小説を書いて応募しようかな。

イチ子 最近は文学賞に応募する人も増えているから競争も激(はげ)しいわよ。アスキー・メディアワークスという会社が主催する電撃(でんげき)小説大賞には昨年6000を超える応募があったそうよ。ライトノベルが対象の最も応募数が多いといわれる賞で、前回より800近くも増えてるわ。自分が書いた小説をたくさんの人に読んでもらいたい、作家になりたいという人は増えているようね。からすけも頑張(がんば)って面白い文章を書き続ければ、いつか作家になれるかもよ。

表紙や彩色、「装丁」にも賞

千代田区立九段中等教育学校の荒川美奈子先生の話
 自分には難(むずか)しいと思っていた明治や昭和の文豪(ぶんごう)の本を、人気漫画家の描(えが)いた迫力(はくりょく)ある表紙に引き込まれて手にしたことはありませんか。同じ作品でも、カバーが違(ちが)うだけで本がアピールしてくるイメージは変わります。表紙やカバーのイラストやタイトルの活字や彩色(さいしき)をデザインし、本文の活字や用紙を選ぶなど、一冊の本の形を造る仕事を装丁(そうてい)といいます。
 本のパーツには様々な名称(めいしょう)があり、本を立てた時の上の部分は天、下の部分は地、本の閉じられた部分は背(せ)と呼ばれます。単行本の場合、背の上下、天・地に細く布が付けられています。花布(はなぎれ)と呼ぶこの小さなパーツの色や材質を表紙や本文に合わせて選ぶことも装丁家の仕事です。
 本の装丁に対しても賞があります。日本では出版された本のデザインに対しての賞だけでなく、書名を指定して広く装丁を募集する賞もあります。本は文字を追って内容を味わうだけでなく、手に取ってその美しさを愛(め)で、ページをめくる手触(てざわ)りを楽しむ総合的(そうごうてき)な文化なのです。
ニュースなテストの答え 1=羅生門、2=村上春樹

[日本経済新聞朝刊ニュースクール2013年1月26日付]

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