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僕たちの前途 古市憲寿著

経験踏まえた「起業の社会学」

著者は28歳の社会学者。大学院生でありつつ、友人たちとIT関連のベンチャー企業「ゼント」を立ち上げている。そこでの仕事は、各種立案作業とともに、天才的なプログラマーである社長の「話し相手」。そうした自らの経験や若い起業家たちとの交流をベースに、「起業の社会学」を展開していく。

(講談社・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

と書くと、若者たちへの「起業のススメ」と思われる方も多いかもしれない。しかし、本書の主張は、本格的に起業に乗り出すのには慎重であれ!というものだ。

成功する起業家は、起業しようと考える以前に、起業してしまっているのが常なのだ。先の天才プログラマーの場合、その能力ゆえに学生時代からプロとしてもう十分に稼げていた。ゆえに組織に属する必要もなく、結果的に仲間と会社を興すことになる。一方、起業することが目的の起業は、多くの場合やがて行き詰まってしまう。もちろん、前著『絶望の国の幸福な若者たち』同様、希望の言葉は残しつつも、本書はごく一般的な若者たちにとっては、苦い読後感が残る内容となっている。

もちろん身につまされるのは、若者だけではない。著者は縦軸に「専門性―コモディティ」、横軸に「固定的―流動的」ととり、働き方を四類型に整理する。固定的かつ専門性の象限には、医師・弁護士など(1)ギルド型専門職、流動的かつ専門性にはITやコンテンツビジネスなどの(2)非資格型専門職、固定的かつコモディティは(3)正社員、そして流動的かつ汎用型の(4)フリーター。(1)は難関、(2)も成功者は一握り、(3)の人員枠は削減される一方で(4)の苦境は言わずもがな、といった現状にある。

さらに、社会学者とて例外ではない。これまでは大学や研究機関に雇用され、基本的には(1)として存在してきた。もちろん、好きな研究に専念できるわけではなく、所属する組織の役務を分担する(3)的な部分も持ちつつではあるが。しかし、最近では任期付など流動的な雇用も多く、専門外かつ不定期の仕事などにも従事せざるをえない(4)的側面も増している。著者のように能力と人脈に恵まれた人だけが、社会学者としてありうる時代なのかもしれない。そう考えてくると、評者の前途は多難だ。

(関西学院大学教授 難波功士)

[日本経済新聞朝刊2013年1月20日付]

僕たちの前途

著者:古市 憲寿.
出版:講談社
価格:1,890円(税込み)

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