2019年9月16日(月)

春秋

2013/1/12付
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青春と病気と貧乏。これが明治になってプライベートな思いをうたうようになった近代短歌の三大テーマだと、歌人の三枝昂之(たかゆき)さんが書いている。それぞれを代表するのがだれか思い浮かぶだろうか。病気は正岡子規、貧乏は石川啄木。そして青春が与謝野晶子である。

▼「ゆあみする泉の底の小百合花二十(はたち)の夏をうつくしと見ぬ」と詠む晶子は、病気とも貧乏とも無縁、若き肉体を誇って青春の奔放のただ中にいる風情だ。その晶子の発表されていない歌が岡山県でみつかった。少し前には京都でも同じような発見があった。欠けていたパズルの小さな何片かが埋まった、と言えばよかろう。

▼中にこんな一首がある。「街行けば涙ぐまるるおもひでの必ずわきぬまづしきがため」。大正期の作というから30代半ばから40代のころである。思わず涙ぐむような貧しさの思い出。知らないと啄木の方に分けてしまいそうな歌もまた、青春を顧みる率直なまなざしが詠ませた、歌人の全貌をかたちづくる小片なのだろう。

▼作家の佐藤春夫は晶子の歌にあらわれた「超凡脱俗、純真な為人(ひととなり)」に敬慕の意を示して「豪傑」と呼んだ。「もはや卑俗なうぬぼれなどというケチな境地ではない」とも書いた。では何か。この豪傑、自分を神としその神に自ら奴隷として奉仕しているのだという。3連休、新成人にこんな青春像を伝えたいと、ふと思う。

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