2018年7月16日(月)

国力を高める(4) 国際ルール順守だけでなく創出を

2013/1/6付
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 日本人はルールを守るのは得意だが、全く新しいルールをつくり出すのは下手だといわれる。世界のどこかで誰かが決めた規範を真面目に守るだけでは、国際競争で優位に立ち、日本の国力を高めることはできない。国際的な技術基準や通商の約束事など、新しい枠組みを創出する力を強めたい。

潮流読むアンテナ高く

 スポーツでは、日本が国際的な規則づくりで負けた苦い経験がある。柔道やバレーボールなど、試合の手順や判定基準が変更されるたびに、日本選手が力を発揮できなくなった例が思い浮かぶ。

 経済や外交も同じだ。ゲームのルールが変われば、勝敗の行方も変わる。優れた技術を開発しながら、世界市場で主流の規格を握れずに、宝の持ち腐れとなる日本企業が目立つ。政府は貿易自由化に乗り遅れ、日本に有利な提案ができないでいる。

 世界的な潮流の変化を読む能力が衰えていないだろうか。たとえば技術分野では、アナログからデジタルに移る際に、企業の感度が明暗を分けた。ソニーの「ウォークマン」と米アップルの「iPod」を比べると分かりやすい。

 携帯音楽プレーヤーは、もともとソニーが世界に先駆けて開拓した市場だが、アップルはインターネットで音楽を配信し、新しい収益の仕組みを築いた。録音方式が違うソニー製品は、次第に海外市場から追い出されてしまった。技術をいかす土俵を築かなければ、真の競争力は備わらない。

 中途半端に大きい国内市場に目を奪われ、独自路線に傾きやすいのは日本企業の弱点だろう。電子決済の「おサイフケータイ」や携帯端末向けテレビ放送、電気自動車の急速充電など、いずれも技術水準は高いが、世界への普及はいまひとつだ。携帯電話で顕在化した「ガラパゴス現象」の予備軍にならないか心配する声がある。

 金融の分野では、米英主導の基準を「所与の規範」として受け入れる場合が多かった。日本はリーマン・ショックの直接の震源地ではない。本来なら一歩引いた立場から、もっと果敢に世界に自己主張できたはずだ。

 2013年から段階的に実施する銀行の自己資本規制「バーゼル3」をめぐる動きは、日本の経済外交の課題を浮き彫りにする象徴的な事例だ。当初、規制の厳格化を急いだのは米英だが、準備不足などを理由に規制の緩和論が浮上している。必死に対応を急いだ日本の銀行は、不利な競争を強いられかねない。

 米国では今年、ボルカー・ルールなど金融規制改革の細目が固まる見通しだ。英国では金融サービス機構が解体され、中央銀行が中心となる金融監督の新体制が始まる。米英は危機後の秩序づくりで再び主導権を握ろうと、したたかに動いている。その流れを追いかけるだけでは国力は高まらない。

 外交の面では、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加が遅れている。米国の要求を受け入れるかどうかという受け身の判断ではなく、米国や他の諸国とともに新たな通商ルールを描くのが、経済大国である日本の責任だ。直接投資や原産地規則、競争政策など、関税以外の分野で日本ならではの斬新な提案を期待したい。

意思決定スピード勝負

 紛争地域への援助や環境対策、資源開発など、明確な国際ルールがないまま各国が競い合う分野はなお多い。経済協力開発機構(OECD)に未加盟の中国は、今では世界で屈指の援助供与国だが、対外援助の基準は不透明だ。支援の名の下で自国の利益を優先した機敏な行動が目立つ。

 世界に向けて発信し、影響力を高める上で欠かせないのが、迅速な意思決定だ。日本の官庁や企業に散見される国内での過剰な競争意識は、外から見ると致命的な弱点となる。組織内や業界内のライバルとの足の引っ張り合いに時間を費やし、戦略がまとまらず対外的な行動が遅れるからだ。

 国際ルールには一つの正解があるわけではない。枠組みづくりの交渉は時間との勝負でもある。先に構想を練り、先に提案した国の政府や企業が主導権を握る。内向き志向が目立つ日本は、世界を舞台とするスピード競争に太刀打ちできないでいる。

 他者の追従ではなく、自ら能動的に秩序を築く。世界に目を向け動きを加速しなければならない。

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