2019年1月24日(木)

ニュートンと贋金づくり トマス・レヴェンソン著 天才科学者と犯罪者の対決

2013/1/8付
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この本は最近流行(はや)りの歴史フィクションではない。何と言えばいいのだろうか。ともかく真実の歴史絡みの本ではあるけれども、読んでいるうちに仰天してしまう。

(寺西のぶ子訳、白揚社・2500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(寺西のぶ子訳、白揚社・2500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

これが書評のための大げさな書き方だと思われる方は、まず最初にこの本の「エピローグ」から読み始めていただきたい。そこには1699年のクリスマスの日に、イギリスの造幣局の監事から長官に昇格する人物の話が出てくる。57歳のときにその地位に昇格し、それから27年間その地位にとどまった彼の平均年収はおよそ1650ポンド――ケンブリッジ大学の教授の俸給が年100ポンドの時代の話である。

そこに南海泡沫(ほうまつ)事件が起きる。「一七二〇年一月、噂の流布からバブルが始まった……株価は一カ月で一二八ポンドから一七五ポンドに上昇し、同社がさらに国債を引き受けると発表されると三三〇ポンドに跳ね上がった……しかしその後、株価はあっけなく暴落した」

歴史上も有名なこの株価暴落事件には当時の国王をはじめとして、問題の造幣局長官も巻き込まれてしまった。その損失は2万ポンド。なんとなく今の時代、世界のどこかで起きかねないことの戯画めいていて、思わず苦笑いしたくなるところでもある。しかも、この長官の名前をわれわれの誰もが知っているのだ。ニュートンである。そう、庭の木からリンゴが落ちるのを見て、万有引力の法則を発見したことになっている天才科学者である。

この本はそのニュートンの、一風変わった、正確に資料をふまえた評伝である。当然ながら、彼の錬金術研究のことがくわしく説明されているし、ロンドンの様子やケンブリッジ大学での生活の話もでてくる。

そして、造幣局監事として彼が裁判の場でも対決することになった贋金(にせがね)作りの犯人ウィリアム・チャロナーの話。ひょっとすると、この本はこの忘れられた人物の評伝と言うべきかもしれない。錬金術を研究した科学者と贋金作り、犯罪者たちの社会史、そして処刑の歴史――すごい本である。

(青山学院大学教授 富山太佳夫)

[日本経済新聞朝刊2013年1月6日付]

ニュートンと贋金づくり―天才科学者が追った世紀の大犯罪

著者:トマス・レヴェンソン.
出版:白揚社
価格:2,625円(税込み)

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