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エネルギー新発見続々 日本は資源大国になれるの?

 「国内でエネルギーや鉱物の発見、研究が相次いでいる。『資源大国』になれるかも」。神田のご隠居、古石鉄之介が新年のあいさつに訪れた事務所の面々に語った。探偵、深津明日香は首をかしげた。「初夢みたいな話。背景を探らないと」

藻から「石油」

藻類から抽出した石油系油のビン (IHIなど3社の川崎市の研究室)

川崎市のビルの一室にある研究室に緑色の液体を満たした容器が並ぶ。培養しているのは「榎本藻」という藻類。光合成をする水生生物の一種だ。IHI新事業推進部の成清勉さん(52)が明日香の前で黒い乾燥藻に点火した。すすっぽい煙が立ち上った。「こうした藻類は石油とよく似た油を作り出すのです」

IHIは2011年夏から国内2社と共同研究。13年度にも抽出した"試作油"を石油や化学の会社に提供、用途を探ってもらう。

JX日鉱日石エネルギーなど3社はミドリムシがつくる油の実用化に取り組んでいる。目標はジェット燃料。飛行機が二酸化炭素(CO2)を出す一方、ミドリムシは光合成でCO2を吸収するので、結果的に排出量を抑えられる。20年度の技術完成を目指す。

「藻類は東日本大震災からの復興にも役立つと聞いたわ」。仙台市を訪れた明日香は津波で破壊された下水処理場で、残ったビルから復旧工事の様子をながめた。同市職員の柳津英敬さん(44)が強調した。「将来、下水の有機物を取り入れて石油系油をつくる従属栄養藻類と呼ばれる生物などを育てる考えです」

明日香は納得した。「大きな狙いは環境対策ね」

周辺の海域、豊富に埋蔵

12年には、日本が経済権益を持つ周辺の排他的経済水域(EEZ)で新たな海底資源の発見が相次いだ。

東京大教授の加藤泰浩さん(51)らは12年6月、日本最東端の南鳥島沖の深海に大量のレアアース(希土類)を含む泥が堆積していると公表した。埋蔵量は国内消費量の少なくとも約230年分と推定する。

沖縄県の久米島沖の深海底では独立行政法人、産業技術総合研究所の調査船が、マグマに暖められた熱水などが吹き出す地域をみつけた。レアメタル希少金属)が存在する可能性もある。魚群探知機で"変わったカゲ"を見つけ、性能が向上する音響測深機という装置で精査した。担当の池原研さん(52)は「発見は技術革新の成果です」と解説した。

うなずいた明日香は地質調査会社の地球科学総合研究所(東京都文京区)に向かった。同社が得意とするのは圧縮空気を使って海中で起こす振動波がどのように跳ね返ってくるかで海底下の様子を調べる手法だ。取締役の河合展夫さん(57)は「最近10年ほどで3次元画像による解析が進み、地中構造の見誤りが大きく減りました」と指摘した。

1~3月には地球科学総合研究所が長く調査に携わってきた新しい資源の産出実験が予定される。「燃える氷」と呼ばれるメタンハイドレートだ。都市ガスの主原料のメタンを水分子がとじ込めている固体で、日本周辺の海底下などに豊富に存在するといわれる。

実験は国の事業だが、同社の親会社、石油資源開発が掘削工事を担当。愛知県渥美半島沖の船から水深千メートル以上の海底下までパイプを伸ばし、地中で分離したメタンガスを採取する。

「資源に乏しいといわれてきたのがウソみたい」。明日香に鉄鋼会社や商社などでつくる日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の長崎暢之さん(39)がささやいた。「世界の国の中で日本の面積は国土が60位くらいですが、EEZでは6位の『大国』です」

JAPICが08年12月にまとめた海底資源の推定埋蔵量は(1)熱水鉱床の金、亜鉛などの原鉱石が7億5千万トン(2)コバルトリッチクラストのチタン、マンガンなどの原鉱石が24億トン(3)メタンハイドレートが12兆6千億立方メートル――だった。長崎さんは「回収可能な量と05~07年の平均金属価格などから3大資源の価値は300兆円以上と推定できます」と明かした。

明日香は驚いた。「国家予算の3年分以上だわ」。その後に見つかった南鳥島沖のレアアースなどを加えると、さらに多くの資源が近海に眠っているようだ。

商業化にはコストが難題

明日香はみずほ総合研究所を訪ねた。「日本はもう資源に困らないのでは」。主任研究員の木下絹子さん(52)は苦笑した。「原油など資源の国際価格上昇も最近の発見や研究につながっていますが、自給や輸出ができるほど大量のエネルギーや鉱物を産出するのはまだ夢物語です」

関係する各社・団体、官庁によると、海底資源は技術やコストが課題で、まだ商業化のメドが立たない。

明日香は日本総合研究所で質問した。「資源の発見や研究に意味はないのですか」。主任研究員、松井英章さん(41)は首を横に振った。「調達の選択肢が増えれば資源国との交渉で有利になれます。世界に先駆けて海底資源を実用化すれば、技術を輸出できます」

松井さんは例として米国におけるシェールガス、シェールオイルという新資源の生産拡大をあげた。これらは岩にとじ込められたガスや石油であり、エネルギーの中東依存度が大きく低下すると見込まれている。

事務所に帰った明日香が報告すると、所長は肩を落とした。「資源大国になればリッチな依頼人が増えると期待したのに」。明日香もぼやいた。「やはり初夢でしたね。今年も地道に経済のナゾを追いましょう」

<エンジニア育成が課題 国内鉱山は技術者の「学校」>

鉱脈を探す若手エンジニア(手前)=2009年12月、鹿児島県伊佐市の菱刈鉱山

資源会社に共通の課題は新卒の技術者の確保と育成だ。これに国内の鉱山などが貢献している。

住友金属鉱山は2012年10月、鹿児島県の菱刈鉱山で新たな金鉱床を発見したと発表した。推定埋蔵量は約30トン。金価格はなお高く、収益増につながる。だが、執行役員の後根則文さん(56)はそれよりも「年7.5トンの採掘ペースを維持すれば、菱刈の『鉱業学校』が4年間、永らえる」と安堵する。

後根さんによると、国内で実質的に金属を産出している鉱山は菱刈だけ。同社の技術者は菱刈で短くとも3、4年勤務して技術を磨く。この経験を外国の鉱山で生かす。技術者を研修のため海外でもへき地にある鉱山に高いコストをかけて送る同業他社が多いなか、「国内で学ばせることができるのが当社の強み」と話す。

石油資源開発も12年10月、秋田県の油ガス田で、シェールオイルを採取する実証実験に成功した。同社はこれに先立つ同年8月、米テキサス州のシェールオイル開発で権益の5%を取得したばかり。広報IR部の四倉甲三さん(48)は「秋田での知見が役立つ」と期待する。

(編集委員 加賀谷和樹)

[日経プラスワン2013年1月5日付]

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