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「ものづくり」はデジタルで進化する

デジタル技術の発展はインターネットや携帯通信の普及を促し、人々の生活や仕事を大きく変えた。そして今度はものづくりの現場をデジタル化の波が洗い始めた。変革のうねりを取り込み、陰りの見える国内製造業の基盤をどう進化させるか、日本経済の成長力を左右する重要なテーマだ。

製造業とデジタルの融合は最近始まった話ではない。コンピューターを使って製品の設計図を描くCAD技術は半世紀に及ぶ歴史があり、今ではどの企業でも使う当たり前の技術になった。

作り手のすそ野広げる

自動車や家電といった身近な商品に、半導体や制御ソフトなど多数のデジタル関連技術が使われているのも周知の通りだ。

だが、いま進行形のデジタル生産革命は過去の技術革新とはひと味違う。デジタルデータをもとに、樹脂を重ね塗りして立体構造物を再現する3次元(3D)プリンターや、革や板を自由自在に切り抜くレーザーカッター。

こうした機器の小型化や低価格化が急速に進み、一握りの大企業だけでなく中小企業や個人でも手が届くようになった。

その結果、「生産活動には工場など大型の設備が必要」という常識が過去のものになりつつある。医療機関のような非産業セクターや、さらには個人でも好きなモノ、必要なモノを自由に簡単につくれる環境が整い始めた。ものづくりの担い手のすそ野が大きく広がろうとしているのだ。

例えば平面プリンターの登場で思い思いの年賀状が印刷できるようになったのと同様に、3Dプリンターを使うと、自分の好きなデザインのペンダントや眼鏡、携帯電話のケースができ上がる。3D先進国の米国では家族写真を撮る感覚で、自分の子どものフィギュア(人形)をつくる人も多い。

デジタル工作機械を集めた「ファブラボ」という工房を東京・渋谷で運営する梅沢陽明氏は「自分の思いが形になる。これは何にも代え難い喜び」という。

医療や教育といった公益性の高い分野でもデジタル技術は威力を発揮する。治療の現場では、患者一人ひとりの体の形状にあった人工骨や義歯ができる。

筋力の弱い子ども向けに腕の動きを補助する樹脂製の器具を3次元技術で作製したところ、従来の金属製の器具よりはるかに軽くなり、日常生活での行動の自由度が大幅に高まった、といった成果も米国では既に出ている。

教育の場でもデジタル工作機械を導入すれば、小中学校などの図工の時間が活気づくだろう。普段の生活ではあまり味わえない「具体的なモノを作り上げた」という達成感を手にできる。

工業高校や大学の工学部で、デジタル機械を使った授業を充実させるのも面白い。若者に敬遠されがちなものづくりに、新しい魅力を吹き込めるのではないか。

むろん、こうした新規の領域にとどまらず、既存の製造業にとっても開発の速度を上げたり、デザイン力を磨いたりするための強力な武器になる。三菱重工業は巨大なガスタービンの開発に3D技術を導入した。従来は何週間もかかっていた試作品がわずか1日で完成し、新型タービンの開発に要する時間が劇的に短くなった。

個人と企業の協業を

別の日用品メーカーはシャンプー容器などの試作にデジタル造形を利用する。多種多様なデザインを現物で見比べることができ、たいへん重宝するという。

ただ、課題も多い。3Dプリンターなどの市場は米国企業が主導し、日本勢の存在感は薄い。技術の活用という点でも、出遅れ感がある。日本の製造現場は匠(たくみ)の技に頼る部分が大きく、それをデジタルに置き換えるのに抵抗感があるのかもしれない。

一方でフォード・モーターなどの米国企業は工場近くにデジタル設備を備えた工房を設け、自社の技術者に自由にモノをつくらせたり、社外のものづくり愛好家と交流させたりしている。

社内外の人材やアイデアを混ぜ合わせることで、これまでにない新鮮なイノベーションが生まれる。そんな期待からだろう。

強いはずの日本の製造業だが、家電産業の不振に見られるように、その基盤は揺らいでいる。半面、最近の円安や「世界の工場」と言われた中国での人件費の高騰を受けて、日本の立地競争力が今後上向くという見方もある。

この風を生かすためにも、デジタル生産革命の成果を最大限活用したい。日本の製造業がモデルチェンジする一つの契機である。

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