春秋

2012/12/15付
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ただでさえ気ぜわしい時期の選挙、なぜともなく浮ついた心に笑顔と言葉の一つ一つがしみ入ってきた。10日間ほど、毎日のようにスウェーデンから流れたノーベル賞受賞者、山中伸弥・京都大学教授のニュースに、この国の将来を照らす光を見つけ、背中を押された。

▼「予想外の結果にこそチャンスがある」とは科学の実験に限らない。生きること自体が予想外との遭遇の連なりなのだから。そしてなによりも、心境を問われて迷わず色紙に書いたという「初心」の一言である。「研究者を目指した最初の日に戻ってまたやりたい」。だれもが口にするが、容易ならざることいかばかりか。

▼だからこそ授賞式が終われば「ノーベル賞は私にとっては過去形だ」と言い、贈られた金メダルは「大切に保管してもう見ることもないと思う」と語った。未来を見つめる清冽(せいれつ)なまなざしがある。「これまでの何百本のホームランも次の1本を保証してはくれない」。だれの言葉だったか、そんな一節もふと思い起こした。

▼「初心とはいつでも帰れる貌をして傍らにありてすでに帰れず」(馬場あき子)。一首にうなずきつつも、せめて正月を期して気持ちを新たにしたい、と思うのが普通だろう。年明けまであと半月でもある。が、ノーベル賞をマラソンの給水にたとえた山中さんは、少しでも脚を休めたのかどうか、とうに走り出している。

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