春秋

2012/12/11付
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昭和30年代あたりの日本映画を見ていると、小沢昭一さんがやたら出てくる。そば屋の出前持ち、盛り場のチンピラ、少年鑑別所の先生、正体不明の中国人バイヤー……などなど脇役が多いけれど、作品をぴりりと引き締めて存在感抜群で、あとあとまで忘れられない。

▼どんな演技にも漂う、おかしくて物悲しい空気に観客は沸いたはずだ。やがてラジオで「あしたはお父さんの小遣いについて考えるのココロだ~」と例の名調子の番組が始まって、小沢さんといえば昭和のおじさんの哀歓、ということになる。名前のとおりのその時代を生き、思いを語り、体現した人が83歳で亡くなった。

▼戦争中は軍国少年だったという。海軍兵学校予科に進むが半年ほどで敗戦となり、価値観の大転換を目の当たりにする。だから小沢さんの昭和物語はとてもノスタルジーばかりでは済まされず、苦く切なく恥も少なくない。バブル期にも世が平成に移っても、ハーモニカがほしかったんだよと歌い続けた焼け跡派である。

▼「戦争ってものは、なっちゃってからでは止められません。なりそうなときでも駄目。なりそうな気配が出そうなときに止めないと」。かつてお話をうかがったさいに、こう力をこめていたのを思い出す。最期までラジオ番組の収録にこだわっていたという小沢さんだ。言い残しておきたいことが、まだまだあっただろう。

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