MAKERS クリス・アンダーソン著 - 日本経済新聞
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MAKERS クリス・アンダーソン著

製造業を変える個人のものづくり

「ロングテール」「フリー」などネット時代の経営トレンドを的確に指摘してきたアンダーソンによる、ものづくり未来論。誰でもが設計者となり、自分の机の上でものづくりをしたり、製造専門会社に委託してメーカーになったりできる時代が到来することを説いている。背景にあるのは、デジタル技術による設計と製造の分離、そしてデジタル工作機械によるデスクトップ製造の実現や、受託生産体制の可能性拡大である。

日本の製造業パラダイムを否定する面があって、受け入れにくいかもしれないが、トレンドの一端は既に日本に到達している。電子機器受託製造サービス(EMS)が登場した時には、設計と製造の一貫性を重視する日本の電子工業は疑いの目を向けていた。ところが米国アップルなどの設計を重視し、製造は外部委託する企業に押される一方である。いまや、代表格の鴻海(ホンハイ)精密工業に救済を求めるところまで来ている。

本書の特徴は、この波がアップルのような大企業だけでなく、個人でも製品を設計・製造できる時代の到来を告げていることと言っていい。個人がベンチャー的にものづくりに入れる余地が大きくなっているという。さらには、デザインを秘匿する従来型の製造業マーケティングから、デザインを広く公開しながら、ネットワーク的に育てて製品化していくような手法も広がる。それを支える支援サービス(個人向けEMS?)などが拡大して、製造業の在り方が根本から変わるとしている。

実は、評者の所属する慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスもこのトレンドに気づき、数年前から教育研究にデジタルものづくりを入れている。大きな可能性とともに、未解決の課題の多さも感じている。しかし、だからと言って大きな流れを無視していいわけはない。

イノベーションはいきなり優れたものとして現れるのではなく、当初は欠点をはらみながら登場してくる。デジタル化を既存の強みへの脅威と感じるのではなく、日本人のデザインやものづくりへのこだわりを、自由自在に発揮できる時代が到来したと、攻めの発想で考えたいところだ。

(慶応義塾大学教授 國領二郎)

[日本経済新聞朝刊2012年12月9日付]

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