秘伝!相撲部屋ちゃんこレシピ どす恋花子著
実用書の枠はみだす土俵愛

お相撲さんに街で遭遇すると、なんだか得したような気分になる。昔、野坂昭如のコラムにそんな一節があって、まさに小膝を叩(たた)く感じになった。本当にそうだ。
相撲部屋に伝わる「ちゃんこ」レシピ集の本書にも理屈抜きの幸福感は漂う。大男たちが大鍋を囲んで大食に精を出す。いい眺めである。よし、ニッポンは大丈夫だ。そんな安堵感はどこからくるのだろう。
全14部屋の「秘伝」を紹介。それぞれの部屋の台所で撮影しているから実際の鍋や器がわかるのが楽しい。調理の流れに大差はないが、細部には独自の方法も残る。
春日野部屋では、こんにゃくを「ガラスのコップを逆さにし」て押し切る。粗い断面に味が染み込むらしい。高砂部屋の「鶏ソップ炊き」の味を引き立てるのは山菜のゼンマイだ。時津風部屋の「鶏もも湯豆腐」の付けダレは、全卵と醤油(しょうゆ)に葱(ねぎ)と鰹節(かつおぶし)と青海苔(のり)を投入してかきまぜる。これがうまそうなのである。
奇抜な筆名の著者は、本名では取材力旺盛なる相撲ライター。レシピに添えられたコラムに土俵愛は充満する。書店では実用書だけでなくスポーツ書の棚にも置かれるべきだ。
★★★★
(スポーツライター 藤島大)
[日本経済新聞夕刊2012年12月5日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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