2019年5月26日(日)

経済学に何ができるか 猪木武徳著 インテリジェンスによる解決説く

2012/12/4付
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日本経済の停滞を示唆する各種の経済指標が報告される中で、長期的な日本経済の構造を規定する問題(財政再建への道筋、原子力発電の位置づけ、環太平洋経済連携協定への参加など)を争点とした衆議院選挙が実施される。短期の景気循環と長期の経済成長を同時に考えなければならない、せわしない師走を迎えた。国民は政党や政治家の訴える経済政策を比較し、選択する必要があるが、マスコミなどを通じて報道される論調には経済政策に対する期待と同時に幻滅が入り混ざっている。この幻滅は、「決められない政治」に対する不信と、「経済学に何ができるか」という素朴な疑問に基づくものであろう。

(中公新書・820円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(中公新書・820円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書は「幻滅」の背景を分析し、それに明快な回答を与える。税金、中央銀行の独立性、所得格差といった様々な社会問題の分析を通じて、「自由社会における様々な対立の根源にあるのは『価値』であり、理想である」ことを示す。この対立を調停するためには、「インテリジェンス、つまり知性が自由社会の価値の相克を解決する役割を担うという確信」が必要であるとしている。そのうえで「まず経済学の論理を知ることが必要であり、経済学の論理の力と限界を知ること、そして経済の論理だけを言いつのらない品性が求められる」と結んでいる。経済学は首尾一貫したものの考え方(=理論)を提示はできるが、それだけでは問題は解決せず、現実の問題に適応するためには、知性、常識、倫理・道徳を総動員して考察を続ける必要を訴える。加えて「人間は賢明で常に合理的な動物だ」「政策の意図と結果は必ず一致する」という軽信を戒める。

こうした困難で厄介な考察の努力を見かけ上、回避するため、経済学が取り入れたのは、価値判断を可能な限り排除した「価値中立」的スタンスであった。しかし、真の問題解決のためには経済学者が本書で解説されたような経済学の立ち位置を深く理解した上で、その知性を最大限働かせて最良の価値の組み合わせを模索し、人々に働きかけねばならない。さもなくば経済学が問題解決のツールとして有効に機能しないだろう。

(日本大学教授 乾友彦)

[日本経済新聞朝刊2012年12月2日付]

経済学に何ができるか - 文明社会の制度的枠組み (中公新書)

著者:猪木 武徳.
出版:中央公論新社
価格:861円(税込み)

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