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現金使わずに生活できるか 1カ月挑戦してみたら…

 カードや携帯電話を端末にかざすだけで簡単に買い物ができる電子マネーは、使える場所が増えてきた。クレジットカードなどと組み合わせれば、現金なしでも暮らせそうな気がする。実際、現金を使わない生活は可能なのか。さらに支出はどう変わるのか。ほとんど現金払いの記者(34)が、1カ月間の「キャッシュレス」生活に挑んだ。

スイカに限度額2万円を入金してスタート

まずは現金以外の手持ちの決済手段を確認。財布にはクレジットカード3枚と、東日本旅客鉄道(JR東日本)の「Suica(スイカ)」があった。スイカは電車やバスに乗るためのICカード乗車券で、電子マネーとしても使える。

銀行のインターネットバンキングも利用している。家賃や税金、保険料、水道光熱費、通信関連費などは給与天引きか口座振替、クレジットカード払いだ。

10月上旬、スイカに限度額の2万円をチャージ(入金)し実験スタート。財布のお金をすべて取り出す。空っぽの財布は何とも頼りない。最初はどこに行っても電子マネーやクレジットカードが使えるかばかり気になって、落ち着かない。

まず困ったのは自宅近くの商店街の行きつけの店での買い物や食事だ。週に2~3回通うパン店は現金決済だけ。店主と顔を合わせないよう前を通り過ぎるのが心苦しい。

人付き合いや週末にひと苦労

帰宅して目に留まった回覧板の「年末までに自治会費集めます」にもギクリ。口座振込可の自治会もあるというが、現金徴収だったはずだ。期間中の集金はなかったが、やはり地域とのつながりや人付き合いが絡むと現金なしはつらい。

仕事先や同僚との飲み会でも苦労する。割り勘で現金が出せないためだ。実験2週目に約束した仕事先との席では「ここは私が」合戦を制した記者が支払って事なきを得たが、不自然な必死さに相手はけげんな表情。学生時代の友人との会では幹事・集金係を引き受け、まとめてクレジット決済する姿に「ポイントかマイルを集めているの? キャラクター変わったね」と言われてなんだか悲しい。

地方出張ではバスに乗ろうとして電子マネー非対応に気付き、用事を思い出したふりをして飛び降りた。代わりにタクシーを利用して割高に。最初に入った土産物店も現金決済だけで、別の店探しに走った。

週末も一苦労。レストランや美術館・カフェ巡り、ゴルフなど外出のたびに、いちいち決済方法を調べるのは興ざめだ。普通は現金と併用するため、こんなストレスはないが……。

とはいえ現金なしの生活にも徐々に慣れてくる。都市部、特に駅周辺ではほとんど困らないからだ。地方でも全国チェーン店を使えば環境は整う。書籍や文具を取り寄せたネット通販の便利さも再認識した。抵抗感がなくなるにつれ、支出は増えた。

お金使う警戒感が薄れ、支出は8%も増加

電子マネーは底をつきかけクレジット頼みに。日銀の調査では1千円以下で電子マネー、それを超えるとクレジットカードを使う人の割合が大きい。外食はやや高めになり、スーパーやコンビニエンスストアではついカゴに入れる食材が増えた。「クレジットで買うと、現金を使う感覚が乏しいので出費が増えやすい」という指摘に納得した。

何とか1カ月を乗り切った。支出(光熱費などの固定費を除く)を前月と比べると、8%も増えてしまった。クレジット決済で支出は2割超増えるとの米国の実験結果もあるという。確かにいつの間にか、お金を使う前の一呼吸、警戒感が薄れた気がする。

では節約しながらキャッシュレス生活を楽しむにはどうするか。当たり前だが、お金を使っている感覚を忘れないことがカギだ。

明細やレシート、まめな確認大切

電子マネーは入金しただけ使える前払い式と、後から使った分だけ引き落とす後払い式がある。入金のし過ぎは禁物で、カードをなくすと補償されない可能性も大きい。1カ月間の経験では、3千円以上使う機会はなかった。後払い式はクレジットカードに近いと考えた方がいい。

日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会(東京都目黒区)の消費者相談室長、有山雅子さんは「使うカードや通販サイトは絞り、利用明細やレシートをこまめに見るようにするといい」と話す。スマートフォン(高機能携帯電話)の家計簿アプリなども、お金の出入りを意識する手段として有効だ。

前払い式の電子マネーに3千円ほどチャージし、クレジットカードで買い物をする際は一呼吸置いてからレジへ向かう。利用明細はこまめにチェック。現金は必要最低限を持ち歩く。節約しながらキャッシュレス生活の便利さを享受したい人は、まずはそんな使い方がいいのではないか。

電子マネーの使用に応じて、ポイントがたまることも多い。残高が一定額を下回ると、決めた額を自動入金する「オートチャージ」という仕組みもある。

オートチャージの金額を無駄遣いしない範囲で設定すれば、便利に使える。こうした機能も活用しながら上手にお金を使いたい。

記者のつぶやき
 クレジットカードの偽造被害や、電子マネーのカード紛失など、気を付けなければならない問題もある。ただ現金とうまく使い分け、ポイントなどの恩恵を活用している人は多いはず。適度な距離で付き合うのが大切なのは、人もお金も同じなのだろう。
(河野俊)

[日経プラスワン2012年11月17日付]

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