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等伯(上・下) 安部龍太郎著

戦国の世、苦悩と魂の軌跡追う

(日本経済新聞出版社・各1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

およそ尋常でない苦悩の中から「松林図屏風」を生み出した長谷川等伯。彼を描いた作品は多くあれど、本書はその中でも傑出しており、現時点の安部龍太郎の最高傑作であると断言できる。

等伯の生きた時代は、弱肉強食の戦国時代であり、作者はその中から雄々しく画境の高みへと突き進む等伯の姿を東日本大震災の復興の祈りをこめて描いたという。

その中で等伯を苦しめるさまざまなことども――主家再興のためなら等伯を自分の手駒としか思わない実家の兄奥村武之丞(たけのじょう)、政治的人間の権化ともいうべき石田三成、等伯と暗闘を繰り返す狩野派とその果てに起こる息子久蔵の横死等々――が次々と襲いかかる。

そして下巻も半ばに来て、等伯は「春が命の萌(も)え立つ季節なら、秋は命の充実の時である」と述懐する。が、作者は敢(あ)えて次に書くべき一節を省略してはいまいか。それは恐らく「では何故、生きることはこんなにも苦しいのか」という文言であったはずである。

他にも本書には、等伯の心の師・千利休の門の内外の問答や法華経への読み込みがあるが、ひたすら等伯の魂の軌跡を追うべき一巻であろう。

★★★★★

(文芸評論家 縄田一男)

[日本経済新聞夕刊2012年10月24日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

等伯 〈上〉

著者:安部 龍太郎.
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,680円(税込み)

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