春秋
「情報発信をしなくても、皆に目を向けてもらえた時期は終わった」。東日本大震災から1年余。宮城県石巻市でボランティアを続ける看護師、佐々木あかねさんはそう感じていた。お年寄りの現状などを訴えたい。でも方法がない。「そこに救世主が現れたんです」
▼佐々木さんが属する看護師のボランティア団体「キャンナス」にこの夏、大手損害保険会社が社会貢献活動として送り込んだ若手社員たちだ。お年寄りの悩み事などをパソコンで記録できるようにしてもらった。これで集計も簡単にできる。機器の使い方も習った。社員にとっては、日々の仕事である保険事務の応用だ。
▼市に提出した報告や提案書に、グラフ化したデータや実例集は、さっそく威力を発揮した。「企業の力ってすごいな、と思った」と佐々木さん。一方、助けに行った側の社員たちにも、気づきがあった。現場で課題を見つける力の大切さ。ふだん作っている書類の意味。新しい保険商品のヒントを得た社員もいるという。
▼社員の成長につながるからと、こうした社会活動に積極的な企業が年々増えているそうだ。政治が「復興予算」を分捕りあい、見当違いのばらまきに精を出し、まじめな人々の信頼をどんどん失っていく。それを尻目に技能を持つ職業人、生活者、企業がどんどん手を組み、つながり、新しい社会の形を作り始めている。