10月に5連休案 休日増えると消費は伸びるの? - 日本経済新聞
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10月に5連休案 休日増えると消費は伸びるの?

 「民主党が新たな連休を10月に設けて消費を増やそうとしているそうだ」。近所のご隠居の話に、探偵、深津明日香が目を輝かせた。「休みが増えるのはいいわ。でも、消費が増えるって本当?」。手帳の暦を見ながら調査を開始した。

混雑を分散、出かけやすく

「民主党はどんな案を考えているのかしら」。明日香はまず、休暇制度の見直しを検討している民主党プロジェクトチーム(PT)の座長を務める参議院議員の藤本祐司さん(55)を訪ねた。

PTが9月にまとめた中間報告案で打ち出したのは「児童・生徒社会体験休暇制度」。10月中旬に小・中学校などに土日も含めた5連休を設ける。夏休みと同じ位置付けなので国民の祝日は増えない。夏休みと冬休みを計3日間短くし、年間の授業日数は現状通りに。企業に有給休暇の取得を促し、親子で一緒に過ごせる機会を増やすという。

全国を月・火・水が休みのブロックと水・木・金のブロックに分け、休みの日をずらす案が浮上している。親が子どもと同じタイミングで休めるのか、などの課題はあるが、来春までに具体案をまとめる予定だ。

「休みが増えると、消費や旅行が活発になる経済効果を期待できます。地域別に分散させるのは、旅館などの値上げや交通渋滞を防ぐためです。宿泊代の平準化が進めば、旅行需要が盛り上がるでしょう。財政支出を伴わない経済対策とも言えます」と藤本さん。

「休日が増えると、どれくらい消費が増えるのかしら」。明日香は大塚家具の本社(東京都江東区)へ。執行役員の渡辺健一さん(44)は「休祝日は差が少ない店でも平日の2~3倍に来店客が増えます」と説明した。ゴールデンウイーク(GW)などは遠方からの来店も多く、無料配送エリアを拡大している。伊勢丹新宿本店・販売推進部長の垣内一朗さん(52)も休日の増加を歓迎。「休日用のイベントを開くなどの工夫をしています」

日本旅行で国内旅行の企画を担当する福岡裕雄さん(43)が期待するのは休日の分散だ。「連休が増えれば年間を通して旅行する人が増えるでしょう」と予測する。海外旅行事業部の佐藤敬之さん(46)も「年末年始など航空料金が高い時期を避けて長期休暇を取れるようになれば、今より安く海外旅行ができます」と休日改革に賛成する。

「全体では、どれくらいの効果なのかしら」。日本観光振興協会常務理事の丁野朗さん(61)に休日の経済効果について質問した。丁野さんは、成人の日、海の日、敬老の日と体育の日を月曜日に固定して土日と合わせて3連休とする「ハッピーマンデー」導入を提唱した人。2000年と03年の2段階でスタートしたハッピーマンデー4日分の経済効果は年間約1兆5000億円とはじいた。

「3連休に旅行する人の数に平均消費額を乗じた額や関連産業への波及効果などを積み上げた数字です。あくまでも事前の推計値ですが、実際に計測しても同様な結果が得られるでしょう」。丁野さんは仮に2週間の連続休暇を好きな時期に取れる制度が導入されたら、4兆5000億円の経済効果が生まれるとの試算も示している。休日1日で3000億円程度の経済効果が生まれる計算だ。

報告を聞いていた所長に「休みが増えたからと言って旅行の費用を出せる人ばかりではないはずだ。本当に消費全体が増えているのか?」と突っ込まれた明日香。そこで第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さん(45)に助け舟を求めた。

熊野さんは総務省の家計調査をもとに、1世帯当たりの1日の平均消費額を試算した。07~11年の平均値では、土日は平日よりも消費額が多く、GW並みの水準だ。一方、祝日や3連休の平均は平日とそれほど差がない。

「思ったほど祝日や3連休の消費が多くないのはなぜかしら」。「休みが増えればショッピングやレジャーなどにお金を使う一方で、限られた所得の中でやりくりし、別の消費を減らしている人が多いからです」と熊野さん。例えば大型連休では医療費や住居への支出が減る傾向があるという。休日の経済効果を試算する場合、こうした負の効果は算出されず、過大な推計になりがちだ。

「他で節約」考慮せず、試算過大

しかも、休日の経済効果の試算は「所得は一定」との前提に基づく。厳しい経済環境のもとで人件費を減らす企業は多く、休みが増えても所得が減るなら消費者の財布のひもは固くなる。所得の減少を防ぐために社員に有給休暇の消化を義務づけると企業の負担が増し、国際競争力が低下する可能性もある。また、働いた日数に応じて収入が決まる非正規社員にとって休日増加は収入減になる。「連休が増えると消費が伸びるとは断定できないのです」と熊野さんは解説する。

「ちょっと待ってください」と声をかけてきたのは世界の休暇制度を研究する慶応大学教授の桜本光さん(65)。桜本さんは現在は有給休暇の取得率が50%を下回る日本で、完全取得が定着すると16兆円の経済効果があると推計した。「休暇の増加で労働力が足りなくなる企業が代役を求めれば、働く人が増えて総所得も上昇します。企業の人件費負担は一時的には上昇しますが、休日を意識した新たなサービス産業が生まれ、企業全体の収入が増える好循環が生まれます」と休暇の効用に期待する。

「休日が増えると消費が増えるかどうかは、企業の行動次第の面もあるのね」と明日香は納得した。

報告の後、「この週末はショッピングに行きたいけど、混み合うのはいやだわ」とつぶやく明日香に「うちの事務所が依頼人でにぎわうのはいつのことやら」と所長がポツリ。

<フランスでは法制化 旅文化、サービス産業を育む>

休暇を増やして経済を活性化させた成功例とされるのが大恐慌後のフランスだ。経済の低迷や高い失業率に直面していたフランスは1936年、労働者に年2週間の有給休暇を保証する法律(通称バカンス法)を制定した。需要喚起と失業率の改善が狙いだった。

国民には2週間の支出負担は軽くなかったが、自転車を利用する節約型の旅文化などが芽生え、サービス産業が成長。内需が拡大し、雇用も増えた。世界を代表する自転車スポーツのツール・ド・フランスもバカンス法が追い風になって発展したという。

同じ時期の米国ではルーズベルト大統領が総需要を喚起するために公共投資や農産物の買い上げに加え、スポーツ・レジャー関連予算を増やした。当時の政策がボウリングをはじめとするスポーツの興隆や、ラスベガスなどレジャー都市の振興にもつながった。

日本では好況時に、休暇の過ごし方や休暇制度が話題になりがち。祝日が年間15日あり、米国などより多い日本での休暇改革が経済対策になるかどうかはともかく、経済が低迷している今こそ、働き方や休暇制度の現状を再点検するチャンスなのかもしれない。

(編集委員 前田裕之)

[日経プラスワン2012年10月6日付]

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