「多様な司法」実現へ構想を練り直せ
「司法試験の合格者数を年間3000人まで引き上げるという政府の目標は現実からかけ離れている」「合格者が2000人程度の今でさえ弁護士は就職難に陥り、質の低下が懸念される」――。
こうした声を受け、政府が合格者数の目標や人材養成のあり方を見直すための検討会議を設けた。来年3月に素案をまとめる。
しかし、司法改革が目指した身近で利用しやすい「多様な司法」はいまだ実現していない。実態に合わせて理念を取り下げるような「合格者数の削減ありき」の議論ではなく、どうすれば本来の司法改革が実現できるかを考え、原点から構想を練り直すべきだ。
この10年間に弁護士の数は1万8800人から3万500人へと1.6倍に増えた。司法改革の設計当初に見込んだほど弁護士に対する需要は広がっておらず、司法修習を終えた時点で2割の人が就職先が決まらないため弁護士登録をしていない。だが、これは仕事がないというより、需給のミスマッチの問題ではないか。
ビジネスの現場では、M&A(合併・買収)や資本市場からの資金調達、事業再生などに精通した弁護士が必要な場面が増えている。しかし使い勝手がよく質の高いサービスは十分ではない。
「法の支配を社会に行き渡らせる」という理念も実現していない。依然、弁護士は大都市に偏在している。地方でも本来は法的な対処が必要なのにそうなっていない問題は多い。それをすくい上げる努力は尽くされているだろうか。
いじめ問題などでも、弁護士や弁護士会としてもっとやれることがあるはずだ。実際、学校と連携したスクールローヤーとして、子どもの人権保護などに取り組んでいる地域もある。こうした試みをさらに拡大していくべきだ。
人材を育てる法科大学院は、約70校が乱立する状況が改善されていない。地方への適切な配置は考慮すべきだが、もっと統廃合を進める必要がある。多様な人材を確保するため、社会人や法学を学んでこなかった人に対するサポート体制の強化も欠かせない。
法科大学院に入ったのに、単年度での合格率は下がり続けて2割台まで落ちている。合格しても仕事がなかなか見つからない。このためさらに志願者が減っていく。この悪循環を断ち切って、若い人が希望を持って目指せる法曹の世界を築かなければならない。