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春秋

北極海の近くにハンス島という小さな島がある。面積は1.3平方キロメートルというから、竹島よりは少し大きい。東にはデンマーク領のグリーンランド、西にはカナダの領土が広がっている。2つの国は島の領有権を主張して係争中だが、どこかほのぼのした雰囲気が漂う。

▼どちらの国かは申しあげられないが、一方の外交官が「係争が起きて良かったことがある」とこっそり教えてくれた。入れ替わりで駐留するデンマークとカナダの部隊が、それぞれの国産ビールを「置き土産」として島に残していく習わしが、受け継がれているそうだ。上陸したらまず相手国のビールで乾杯というわけだ。

▼係争は1970年代から続いている。一年の大半が氷で閉ざされるため、利用価値は乏しいと思われた場所だが、その事情は地球温暖化で変わった。ハンス島が浮かぶ海峡の氷が解ければ、北米とアジアを結ぶ新航路の要衝となるからだ。10年ほど前には、軍事演習や国防相の電撃的な上陸などで緊張が走ったこともある。

▼領有権の交渉は終わりが見えない。それでも両国に焦る様子はみえない。冷めたけんかと呼ぶべきか。互いに「見解の不一致」を認めた上で、歴史の検証や共同開発の検討が淡々と進められている。カナダ軍が置いた酒の箱に「カナダにようこそ」と書いてあったそうだ。デンマーク兵はニヤリと笑って飲んだに違いない。

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