過疎地の伝統芸能の再生を願って 星野紘著 生活環境と伝承者の立場を重視

2012/8/27付
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東日本大震災後、半年に1度ずつ、被災地400~500キロを3度巡ってきた。その中で、復興の遅れていること、被災3県の違い、福島県の抱えている問題の構造的な深刻さを強く感じてきた。

(国書刊行会・3600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(国書刊行会・3600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

だが、その中でも、未来社会への希望とも感じられたのが、本書で取り上げられている、それぞれの地域社会の中で息づいてきた「伝統芸能」や「民俗芸能」であった。評者が特に関わりを持ったのは、宮城県石巻市雄勝町の雄勝法印神楽であるが、津波により保存会会長を喪(うしな)いながら、神楽の再興を通して、全国からの支援を得て、地域の絆・団結と活性化を図っていく過程は感動的でもあり、多くの示唆と勇気を与えられた。

本書を読みながら、雄勝神楽を含め、出合ってきた日本各地の伝統/民俗芸能の数々が鮮やかに甦(よみがえ)ってきた。その一つ一つに、地域の歴史と経験と個性が刻印されていて、優劣や評価を超えた祈りといのちの累積を感じさせられた。それこそが、「伝統」と「民俗」の底力だろう。

本書は、過疎地の伝統芸能の抱えている問題を、「3・11」後の状況の中から喫緊の課題と対策を、中国や韓国など東アジアの現代の事例とも比較しつつ広く鋭く描き出した力作である。本書の基本的な立場は、伝統芸能に特定した緻密な従来の客観的研究を踏まえつつ、地域の生活環境全体と関連づけていく総合的な視点と、伝承者の立場に立った民俗芸能理解を深めていこうとする、より実践的で生活者的なものだ。

とりわけ、著者が伝統芸能の持つ生命力を、「傷を負いながらも、尻尾や体毛の一部を切り落として罠(わな)から逃げのびる動物の如き生命力の強さを見せる民俗芸能」と評している点が痛みとともに共感できた。また、伝統芸能の「保存」や「持続」の「方策」には「所与の特効薬」などはなく、「伝承地住民、行政機関、民間団体等が、互いに時々の社会経済的な環境の変化に応じてよりよい方途を見出して行く、その知恵」しかないと指摘している点にも。時宜に適(かな)った本書が広く読まれ、未来の地域社会の創造の参考になることを心から願う。

(京都大学こころの未来研究センター教授 鎌田東二)

[日本経済新聞朝刊2012年8月26日付]

過疎地の伝統芸能の再生を願って: 現代民俗芸能論

著者:星野紘.
出版:国書刊行会
価格:3,780円(税込み)

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