広がる雇用のミスマッチ 人材「探す」から「育てる」へ
立ち上がる被災地企業

2012/8/25付
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「人はいったいどこに」。東日本大震災の津波で大きな被害を受けた宮城県石巻市。漁港を背景に広がる水産加工団地、魚町(さかなまち)の一角でサンマ加工品などを生産する山田水産石巻事業所。いち早く再開した同社はこの1年「人手の確保に悩んできた」(岡田賢二所長)。

■復職迷う被災者

沿岸被災地の水産加工業では人手不足が深刻だ(宮城県石巻市の山田水産石巻事業所)

沿岸被災地の水産加工業では人手不足が深刻だ(宮城県石巻市の山田水産石巻事業所)

三陸一の水産加工基地でもある石巻。魚町と周辺に大小200社が集積、市内の製造業従事者の約4割を雇用し地域経済を支えてきた。津波が職場を奪ってから1年半、再開した事業所は4割。働く場は足りないはずだが各社は一様に人手不足を訴える。

4月に震災失業者の職場確保で福島県いわき市に進出したコールセンターのDIOジャパン(松山市)。200人のオペレーター席を用意したが今の陣容は140人。避難者で就職したのも数人という。

立ち上がり始めた被災地の中堅・中小企業が抱える課題は供給網の変化による受注減だけではない。

岩手、宮城、福島3県の雇用保険の受給者は被災地を対象にした「広域延長給付」を含めて6月末で約4万3900人。延長給付は9月末で終わる。多くが労働市場に戻るはずだが、宮城労働局の落合淳一局長は「どれだけ戻ってくるか」と不安を隠さない。

元の職場の復旧が長引く間、離職する中・高齢者もいる。「求人の給料が前の仕事より低い」「車が流され仮設住宅から通えない」――。復職に踏み切れない被災者の思いは様々だ。

復興庁によると求職者が多い事務作業などの求人は少なく、復興関連で求人の多い建設業は未経験者の就職が困難という。3県の6月の有効求人倍率(季節調整値)は19年4カ月ぶりにそろって1倍を超えた。雇用のミスマッチが広がる。

■技能継承へ動く

7月にトヨタ自動車の生産子会社3社が統合し発足したトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)。トヨタといえども新拠点を支える人材確保は大きな課題。昨年稼働した宮城大衡工場でも「すぐにやめる人が多い」(同社幹部)という。

同社は来春開校するトヨタ東日本学園の1期生募集を始めた。「地域の人材育成を担いたい」(白根武史社長)。東北の生産基盤を支える人づくりが始まる。

「今まで若い人材を育て技術を伝えてきたか」。同県南三陸町でメカブやウニ加工を再開したカネキ吉田商店の吉田信吾社長はこう自問する。欠員補充で雇うのも生産性を計算できる経験者ばかり。気がつけば従業員の平均年齢は50歳に迫っていた。

今春、被災地企業の多くが新卒採用を断念、多くの若者が県外に就職した。だが「本来、高校卒業予定者の県内就職の意欲は高い」(宮城県教育委員会)。

今年、カネキ吉田は3人の新卒者を採用。来春は5人に増やす計画だ。「若い人が町から減ったのも雇う努力をしてこなかった自分たちの責任だ」(吉田社長)。そこには人材づくりと技能の継承に動き出す被災地企業の姿がある。

震災現地取材班 中村元、篠原英樹が担当しました。

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