先生のお庭番 朝井まかて著
人間の美しさに気づく

読後、心が静かに慰められ、人間の美しさに改めて思い至る――これはそんな小説だ。多分、文体の持つ温度が絶妙だからだろう。
物語はシーボルトと彼の薬草園の園丁(えんてい)=お庭番となった熊吉の4年間にわたる交流を描いたもので、これにシーボルトの日本人妻等が絡む。
たとえば、シーボルトが熊吉と馬に乗り、稲佐山からの景色を眺めつつ、日本の自然を「私が生まれた国の春はな、これほどの色を持たぬのだ」とも「この地の花木、草花の株を生きたまま母国に運ぼうと思う」ともいう場面に接すると、読んでいる己が身が浄化されるような気持ちになる。
それはこの一巻の扱っているテーマが、実は歴史の一コマではなく、現在、私たちにとって最も切迫したテーマ"エコ"であるからに他ならない。
そして後半、いわゆるシーボルト事件に絡んで先生と熊吉らとの間に生じる齟齬(そご)は、"エコ"に関して未(いま)だ統一見解を持たない人間たちに対する痛烈な批判たりえている。
が、その中であくまで人の"絆"を信じようとする熊吉の姿に、私はいつしかこの一巻を愛していることを感じた。
★★★★★
(文芸評論家 縄田一男)
[日本経済新聞夕刊2012年8月22日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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