2019年7月19日(金)

台湾海峡一九四九 龍應台著 歴史に翻弄された人々を鮮やかに

2012/8/13付
保存
共有
印刷
その他

1949年、中国では共産党が内戦に勝って新しい政権を打ち立て、負けた国民党は台湾に逃げ込んだ。この事件を軸として、歴史のうねりに翻弄された人たちの姿を鮮やかに、情感豊かに描き出した好著だ。

(天野健太郎訳、白水社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(天野健太郎訳、白水社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

たとえば詩人の管管氏。49年に国民党軍に拉致され強制的に兵隊にされたいきさつが、本人とのインタビューで明らかにされる。インタビューの途中、聞き手の著者がくり返し口にする言葉が切ない。「管管、泣かないで」。話し手の表情が目に浮かぶようで、胸を打つ。

後に総統となる李登輝氏が、敗戦国となった日本から台湾に戻ったときに見せた「思いやりと度量」。国共内戦の終結からおよそ半世紀の後に大陸に里帰りし、ダムに水没していた故郷を目の当たりにした、著者の母の嘆き――。

有名、無名、様々な人たちが登場し、著者自身も断片的にしか理解していなかったという時代の鼓動を生き生きとよみがえらせる。その筆は時に、東アジアの外にも広がる。浮かび上がるのは歴史の非情であり、著者はそれを糾弾したがっているようにみえる。

多くの餓死者が出た48年の長春包囲戦は国共内戦のなかでも特に悲惨な戦いの一つだが、世界的には余り知られていない。同じように多数の餓死者が出たレニングラード包囲戦が有名なのと比べ、著者は「どうしてもわからないのだ」と書く。

本書を内容で分類すれば歴史ノンフィクションだろうが、訳者が指摘するように「単純なジャンルには収まりきれない豊かな作品」であり、そして「めっぽう面白い」。中国語のサイトを調べると、著者は「華人のなかで切れ味が最も鋭い書き手」と評されることがあるようだ。本書を読むとうなずける。

著者は現在、国民党政権の閣僚をつとめている。ただ本書に党派制は感じられない。あえて本書の政治的な立場をさぐるなら、冒頭の一文がそのすべてだろう。「時代に踏みつけにされ、汚され、傷つけられたすべての人に敬意をこめて」。大陸で禁書になったのは、この「政治的な立場」が最大の理由かもしれない。

(論説委員 飯野克彦)

[日本経済新聞朝刊2012年8月12日付]

台湾海峡一九四九

著者:龍 應台.
出版:白水社
価格:2,940円(税込み)

保存
共有
印刷
その他

関連キーワード

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。