/

アンチモダン アントワーヌ・コンパニョン著

反啓蒙思想の作家たちを論じる

著者は2006年、本書でフランス学士院賞を受賞し、コレージュ・ド・フランス教授に迎えられている。本書の邦訳の副題は「反近代の精神史」となっているが、原書の副題は、「ジョゼフ・ド・メーストルからロラン・バルトまで」であって、必ずしも右派、保守派作家のみを論じているわけではない。本書冒頭で指摘されているように、著者は、アンチモダン(「近代の潮流に嫌悪を覚える作家たち」)を「反革命、反啓蒙思想、悲観主義、原罪、崇高、罵詈雑言(ばりぞうごん)」の6つの要素から検討している。

(松澤和宏監訳、名古屋大学出版会・6300円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

とりわけ、反啓蒙思想という点で、アンチモダンの作家は共通しているだろう。たとえば、マルセル・プルーストの母は、息子にあてた手紙のなかで「お前は一八世紀を馬鹿(ばか)にしているように思えるよ」と書いた。ユダヤ人解放はフランス革命の恩恵だと考えていた母親から見れば、息子の書くものに18世紀啓蒙思想への嫌悪感を感じ取っていたのかもしれない。

ボードレールも進歩への崇拝を「怠け者の教義」と呼んだし、その傾向は、第2次大戦後のジュリアン・グラックまでつながっている。そして、ダンディズムを生み出すことになる平等化、均質化への反感は、一転して「崇高性」への執着へと結びついてゆく。それは1930年代のバタイユ、カイヨワらの「社会学研究会」にも顕著にあらわれてくるのだ。

ところで、著者も認めているように、シャトーブリアンやボードレールのごとくアンチモダンの特徴をことごとく集約した作家は、20世紀には稀(まれ)であり、なかでもロラン・バルトを旧来的な意味でのアンチモダンに位置づけるのにはやや無理があると感じた。

著者にとって師にあたるバルトの晩年の転向(変貌)を、監訳者の松澤和宏は、「監訳者解題」において、まず時代状況(ソ連のチェコ侵入、『収容所列島』刊行などによる政治的幻滅)から推測している。さらに母の死がもたらした悲哀感や「憐憫(れんびん)の情」が、「過去を清算し常に斬新なものを特権化するモダニズム」への決別を生んだと説明しているのだが、こちらのほうが説得的である。

(東京経済大学教授 桜井哲夫)

[日本経済新聞朝刊2012年7月22日付]

アンチモダン -反近代の精神史

著者:アントワーヌ・コンパニョン.
出版:名古屋大学出版会
価格:6,615円(税込み)

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン