2019年3月19日(火)

世界を救う処方箋 ジェフリー・サックス著 他者への共感と未来への責任説く

2012/7/23付
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英語圏の多くで経済学の博士号はPh.D.と呼ばれる。直訳すれば哲学博士だ。経済学のルーツを表していると言っていい。

(野中邦子・高橋早苗訳、早川書房・2300円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(野中邦子・高橋早苗訳、早川書房・2300円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

指折りの経済学者サックス教授の新著は原題「文明の対価」。アメリカ経済を考察の対象とし、人々に生き方を説いた哲学書だ。

前半の現代アメリカ社会に対する批判は痛烈だ。自由至上主義、貧困と格差、政治の腐敗、的確なデータを示しながら説得的に持論を展開していく。特に、小選挙区制に基づく二大政党制が政党内の結束を弱め、地域の有力者や圧力団体の影響力を強める素地になったという指摘は興味深い。

鋭い批判はアメリカ国民にも向けられる。目先の欲望にとらわれて過剰な消費を謳歌することに熱心で、将来への投資を疎(おろそ)かにしているというのだ。その原因として槍(やり)玉に挙がるのがマスメディアとコマーシャリズムという点は目新しくないが、国民の浪費的性向を表すコマーシャリゼーション指数(著者考案)が国内貧困率と強い相関を持つという指摘は無視できない。

著者は、人間が宣伝や誘惑に弱いと考える。だからこそ、アメリカ国民を啓蒙すべく、後半では中庸を提案し、他者への共感を重視し、社会と未来への責任を説く。

責任を果たすためには市場の力だけでは不十分で、政府の役割が重要であり、将来世代の負担を減らすために、いま税金を負担することが「文明の対価」だと主張する。原題の由来だ。

ただし、前半で痛烈に政治の腐敗を批判しながら、解決策として無批判に政府に頼っている点には疑問が残る。後半部の叙述が説教じみている点も好き嫌いが分かれるだろう。理想主義的に過ぎるという批判もあるに違いない。

しかし、著者は遠い未来のことまで考えられなくとも、「今日生まれたばかりの赤ん坊の未来を大切に思ってやるだけでいい」とも述べている。

この言説に真っ向から反対できる人は少ないだろう。「文明の対価」として税負担をとらえ直す時が来ている。

(明治大学教授 畑農鋭矢)

[日本経済新聞朝刊2012年7月22日付]

世界を救う処方箋: 「共感の経済学」が未来を創る

著者:ジェフリー・サックス, Jeffrey Sachs.
出版:早川書房
価格:2,415円(税込み)

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