2018年12月17日(月)

機械より人間らしくなれるか? ブライアン・クリスチャン著 人工知能の競技大会での奮闘

2012/7/18付
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コンピュータは人間の知能を超えることができるのか? そもそもコンピュータが人知に迫ったということを、どのように判断したら良いのだろうか? その指標のひとつとして、「チューリングテスト」がある。人工知能の父と呼ばれる英国の天才数学者、アラン・チューリングが提唱した。チューリングテストはコンピュータがどれだけ知的であるかを測るために、審査員がコンピュータと人間(サクラ役)の両方と端末の画面上で会話をして、どちらが本物の人間であるかを判定するというものである。チューリングは2000年までに、コンピュータが5分間の会話で30%の審査員をだますことができるようになると予言した。しかし、未(いま)だその壁は突破されていない。

(吉田晋治訳、草思社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(吉田晋治訳、草思社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書はそのチューリングテストの競技大会、ローブナー賞での闘いぶりを描いたドキュメンタリーである。ここで面白いのは、コンピュータ側の話ではないということだ。サクラ役として出場した著者が、審査員から「最も人間らしい人間」と判断される賞をかけて奮闘した軌跡なのである。

そもそも、人間らしいとはどのようなことか? 人間である我々は、まず通常気にもとめず、人間として振る舞っている。しかし「人間らしくあれ」と命じられたら戸惑うであろう。著者はコンピュータ科学と哲学の2つの学位を持つジャーナリストである。彼は「最も人間らしい人間」という賞を勝ち取るため、心理学、言語学、法律家などさまざまな専門家から意見を聞き、大会に向けて対策を練ってゆく。もちろん、分野は人工知能分析の範囲に止(とど)まらない。カスタマーサービスでの対応、裁判での尋問、ナンパにおける会話……様々な場面の話術を考察し、人間らしさの正体に迫ろうとする。多岐の領域にわたる著者の探求は、読み手に自らの普段の何気ない行動をふり返るきっかけを与える。あちこちで、ページをめくる手を止めさせ、考え込ませるといった行為を呼び起こすことだろう。人間らしい人間という問いは、深遠さと身近さの両方を兼ね備えている。本書は、人間らしさとは何かをめぐる、一級の冒険ノンフィクションといえるであろう。

(サイエンスライター 内田麻理香)

[日本経済新聞朝刊2012年7月15日付]

機械より人間らしくなれるか?: AIとの対話が、人間でいることの意味を教えてくれる

著者:ブライアン クリスチャン.
出版:草思社
価格:2,940円(税込み)

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