はるかかけら 高崎卓馬著
4つの物語が自然に同居

不思議な小説集だ。ここにあるのは、昭和の北九州を自転車で走る女学生から、南インドの寒村で人を憎むことを知る少年、さらに夢に向かって23世紀の宇宙を旅する青年、そしてリストラされた初老男まで、4つの物語だ。女学生友情小説の温かな気分と、歪(ゆが)んだ関係を描く家族小説の暗さと、ユーモラスなSFの明るさと、そして初老小説の淡い日々が、自然に同居しているから奇妙といっていい。
驚くべきなのは、その4編ともにしっかりと読ませることだ。これだけ持ち味の異なる小説であるにもかかわらず、どれもじっくり読ませて飽きさせないのは見事。歳月の流れの中に人生を感じさせるうまさもあれば(それが表題作)、ストーリー色の濃い物語もあり(宇宙旅行を描く「グレープフルーツムーン」のディテールを見よ)、この著者の幅広い才能をうかがうことが出来る。ようするに、才気あふれる小説集である。
著者略歴をみると、著名なCMプランナーで、これが初の小説とのこと。本業が忙しければ難しいのかもしれないが、出来れば今後も書きつづけてほしい。いま願うのはそれだけだ。
★★★★
(文芸評論家 北上次郎)
[日本経済新聞夕刊2012年7月4日付]★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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