2019年1月24日(木)

東京スカイツリー論 中川大地著 様々な角度からの豊富な考察

2012/7/4付
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刺激的な本である。3・11直後、職場から自宅のある向島まで、震災直後の下町を歩く、いわば小さな破局の経験からはじまる本書は、かずある東京スカイツリーについての議論のなかでも出色のものといえる。

(光文社新書・950円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(光文社新書・950円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書は、最初に、スカイツリーの負わされた機能について検討したあとで、世界のタワー史のなかにスカイツリーを位置づけてみせる。さらに、東京の都市史を考察し、地元の人びとの動きをふり返りながら、これからの時代(著者のいう「拡張近代」)を展望してみせる。新書という形態ながら、歴史、思想、都市論などを横断して、さまざまな角度から、この新規参入のタワーを考察するその内容は、多様で豊富である。

本書を特異なものにしているのは、著者がスカイツリーの直近の下町生まれの下町育ちであるという点である。おそらくそれが著者をしてこの本を書かしめたのであろう。「地元ムーブメントはいかにスカイツリーを"拡張"したか」と題された第4章が、その点でおもしろい。著者は、当初の計画の公表の段階では、下町に巨大なタワーを建設するという計画そのものに懐疑的であった。ミクシィのような交流サイト(SNS)から、おなじく区民のあずかり知らぬところですすんでいく計画に懐疑的な仲間がつどい「住民団体」が結成され、安全確保・住環境保護を旨とした、この計画そのものへの働きかけがおこなわれる。その過程での地元の人びとの態度の変化は興味深い。ちなみに、住民たちが提出したスカイツリーへの対案としての浅草一二〇階の構想も記されているが、そのユニークな景観は一見の価値がある。

通天閣はじめ、近代のタワーは、建築当初の意図や予想を裏切りながら定着したり、あるいは定着しなかったりする。塔は建設当初は話題を呼び、人はこぞってそこにのぼりたがる。しかし、ブームはつづかない。そのあと、その塔の生命は、とりわけ、それを否が応でも風景にして生きる人びと(つまり地元住民)の生活に、どう織り込まれていくかによって、左右される。本書は、スカイツリーの命運を知るためにも不可欠の一冊である。

(社会学者 酒井隆史)

[日本経済新聞朝刊2012年7月1日付]

東京スカイツリー論 (光文社新書)

著者:中川 大地.
出版:光文社
価格:998円(税込み)

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