2019年1月23日(水)

日本レスリングの物語 柳澤健著 80年にわたる猛者たちの歴史

2012/7/3付
保存
共有
印刷
その他

"四年に一度のスポーツ"と言っては失礼だろうか。オリンピックイヤーを除けば、レスリングのメディアの露出は極めて低く、関心も低い……いや低かった。が、女子レスリングが五輪の正式種目として認められ、日本が世界最強を誇るようになるや注目度は一気に高まった。日本人の五輪贔屓(びいき)と金メダルへの敬意だろうか。同書は80年の日本レスリングの栄光、挫折、迷走、そして今日の女子に見られる光明の歴史を描いたものだが、レスリングを通した日本人の魂を感じさせる現代史でもある。

(岩波書店・2600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(岩波書店・2600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

日本のレスリングは、柔道とプロレスの異種格闘技戦が起源だという。その後、「柔道はレスリングに応用できる」と、オリンピックという華やかな国際舞台での活躍を目論見(もくろみ)、世界に向けた日本の発信に生涯を捧(ささ)げた"日本レスリング界の天皇"八田一朗がいた。「柔道を超えろ」を合言葉に、時には百獣の王ライオンとにらめっこをして闘争心を煽(あお)るという冗談ともいえぬ試行錯誤も辞さず世界最強国を目指した。思えば、プロレスではあったが、日本の戦後復興の希望の一つはこれであった。力道山が空手チョップで悪役外国人レスラーをバッタバッタとなぎ倒す。その姿に日本人は溜飲(りゅういん)を下げ、敗戦のショックから逃れ、将来の不安に一縷(いちる)の光明を見た。つまり、レスリングは今日の日本の精神的屋台骨だったかもしれない。

そんなレスリングに情熱をかける八田をはじめ、鍛え抜かれた肉体と自らとお国への誇りを胸に闘ってきた猛者たちの汗が頁(ページ)いっぱいにほとばしる。マットの外でも協会内権力闘争、学閥等場外乱闘を繰り広げ、汗臭さはもとよりそんな人間臭いドラマに、手に汗握る。八田亡き後"八田イズム"を継承する福田富昭。国際レスリング連盟副会長で、北京五輪では日本選手団長も務めた。たかがメッキの金メダルだが、その価値の大きさを誰よりも知り、日本レスリングの物語を語り継ぐ。また本書に登場する60人余の往年のレスラーたちへの著者の精力的なインタビューが"四年に一度のスポーツ"と高を括(くく)っていた者を確実フォールに持ち込むに違いない。

(ノンフィクション作家 黒井克行)

[日本経済新聞朝刊2012年7月1日付]

日本レスリングの物語

著者:柳澤 健.
出版:岩波書店
価格:2,730円(税込み)

日経電子版が2月末まで無料!いつでもキャンセルOK!
お申し込みは1/31まで

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報