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新橋演舞場6月公演

猿之助、情愛通った膨らみ

実にユニークな公演である。芝居だけでなく口上から何から舞台上で行われる一切がだ。初代市川猿翁・三代目市川段四郎五十回忌追善というのが、この興行の第一のうたい文句。二代目猿翁・四代目猿之助・九代目中車の襲名に五代目団子初舞台披露というのがもう一つの眼目だが、テレビのワイドショーがもし世間一般の関心の在り所を代表しているとするなら、焦点は映画俳優・香川照之が歌舞伎俳優・市川中車として変身するサマに絞られる。

披露の「口上」で新・中車は感涙にむせんでいるかに見える。脳梗塞という病と闘う猿翁が不屈の姿を見せる。どんなに長く歌舞伎を見続けてきた観客でもこうした光景に接するのは初めてだろう。

とはいえ、中心となって昼夜の舞台を主演するのは亀治郎改め四代目猿之助であるのは動かしようがない。伯父・猿翁から継承した古典歌舞伎「義経千本桜・川連法眼館」とスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」を見事に演じきる。前者は既に経験済みだが、今回はゆとりも出来、情愛の通った膨らみのある舞台となった。坂田藤十郎・片岡秀太郎という長老が共に初役で義経・静を勤めるという大ごちそうに楽しさが横溢(おういつ)する。

ヤマトタケルは初役だが、花あり情あり、猿翁すなわち先代猿之助よりスッキリと役にかなっている。新しい猿之助として、新旧の歌舞伎に高いレベルで第一歩を刻したことになる。右近以下、猿翁の育てた人材が今や中堅として脇を固める姿も好もしい。

新しい中車の演目は大正期に初代猿翁が初演した新歌舞伎「小栗栖(おぐるす)の長兵衛」。歌舞伎を踏まえた一種の新劇だが、よく学んで上々の第一歩。発声に違和感のないのが何より良い。「ヤマトタケル」の帝もまず無事。29日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)

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