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キノコの教え 小川眞著

森を支える菌類の静かな奮闘

私たちはマツタケを珍重し、滋味あふれるキノコ鍋に舌鼓を打つ。年間を通してキノコが食卓にのぼる回数も多いだろう。それだけ身近なキノコではあるが、キノコのことを正しく理解しているだろうか。そして物静かなキノコの活躍ぶりに対してあまりにも無知ではないだろうか。そんなキノコの代弁をしてくれるのが、長年にわたって菌類学の研究を続けてきた小川眞氏によって著された『キノコの教え』である。

キノコがスーパーの野菜売り場の中にあっても違和感を抱かないが、キノコは植物ではない。生物を五つのグループに分けて考える「五界説」では、動物界、植物界と並んで「菌界」が堂々と存在している。菌類は動物や植物と並ぶ生きものなのである。

冒頭は人々との関わり、特に「食べることとキノコ」について書かれている。トリュフ、マツタケをはじめとして古今東西の人々が愛するキノコたち、毒キノコの見分け方、キノコの歴史の話など、私たちにとって「見える」キノコの話題が豊富に描かれている。キノコの研究はいわば「低次元の食欲」からスタートして進んできたという指摘は興味深い。

中盤からは一転、普段私たちの目には触れない「見えない」キノコの奮闘ぶりへと話が展開されてゆく。石炭の起源にキノコが関わっているのではないかという著者の説は注目に値する。森林での菌類や動物たちの働きを見ていると、「自然界に無駄はない」ことがよくわかる。そんな森を支えているキノコが環境異変を告げている。私たちはそんなキノコの声に謙虚に耳を傾けねばならない。

さらにキノコは3・11後のあり方に対しても深い示唆を与えてくれる。一部のキノコは放射性セシウムを含む重金属を吸収する作用がある。土壌の放射性物質の除染に役に立つかもしれないという。またショウロというキノコはマツと共生している。マツ林は津波の勢いを削ぎ、ショウロは砂を固める働きがある。昔から日本人がマツ林を海岸に植えてきたのは理由があるというのだ。

今こそ、他の生きものと支えあって「共生」するキノコの生き方を見習うべきではなかろうか。

(サイエンスライター 内田麻理香)

[日本経済新聞朝刊2012年6月3日付]

キノコの教え (岩波新書)

著者:小川 眞.
出版:岩波書店
価格:840円(税込み)

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