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リベラルな秩序か帝国か(上・下) G・ジョン・アイケンベリー著

米主導の国際的枠組みへの信頼

本書は、『アフター・ヴィクトリー』(NTT出版)などの著作で日本でも知られた国際政治学者が、冷戦直後からブッシュ政権期にかけて発表した論考を所収している。一貫しているのは、第2次世界大戦後に米国が主導して創設した国連、日米同盟、北大西洋条約機構(NATO)といった安全保障の枠組みと、ブレトン・ウッズ体制を起源とするグローバルな自由貿易制度に基礎をおく国際秩序への信頼である。

この国際秩序は、米国の狭い国益に基づき、他国に一方的に押し付ける「帝国」的なものではないと著者は指摘する。むしろ、国際的なルールを重視し、他国の支持を前提とする、民主主義的な価値を体現した「リベラル」な秩序であり、その存在が冷戦期から現在にいたるまで国際社会の安定に寄与してきたという。

リベラルな国際秩序の下では、主要国が米国を中心とする安全保障・経済的枠組みによって結び付けられる一方、米国はそこで約束されたルールに従う姿勢を見せることでその秩序が正統なものとなる。それゆえ、ルールを軽視する米国の姿勢を強く戒めており、特に本書の後半では、国際的な合意を広く得られなかったイラク戦争をはじめとするブッシュ政権の対外政策を厳しく批判している。

著者は、現在の国際秩序は多くの国家から支持されており、米国の国力が低下しても存続すると主張する。例えば、本書の冒頭でも述べているように、中国の台頭という新たな状況に対しても、中国は現行の国際秩序で経済発展に成功し、その路線を維持することに利益を見出(みいだ)しているため、最終的にリベラルな秩序を受容すると予測している。

しかしながら、中国がそうした国際秩序に安住しないと思わせる兆候もある。近年の中国の海洋における権益の主張は国際的なルールに則(のっと)っておらず、日本を含む近隣諸国との摩擦を生んでいる。今後、大国化した中国は権利の要求を既存のルールに基づいて行うのか、あるいはルールそのものを変更する方向に動くのか、本書が描く国際秩序の未来は日本にとって重い含意を持つものといえる。

(防衛研究所主任研究官 塚本勝也)

[日本経済新聞朝刊2012年5月20日付]

リベラルな秩序か帝国か 上: アメリカと世界政治の行方

著者:G.ジョン アイケンベリー.
出版:勁草書房
価格:2,940円(税込み)

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