パーディタ メアリ・ロビンソンの生涯 ポーラ・バーン著 18世紀末英国のスキャンダル

2012/5/22付
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まもなくオリンピック大会の会場となるロンドンの、今から230年ほど前の姿など、とても想像できるものではないかもしれない。大西洋の彼方(かなた)の植民地アメリカの独立宣言が1776年、すぐそばの海峡の先にあるフランスでの革命が1789年。おおよそこの時代の、つまり、18世紀末のロンドンに……

(桑子利男ほか訳、作品社・3800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(桑子利男ほか訳、作品社・3800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

イギリス史上最高とされる美しい女性がいた。げんにこの本にはその美しい肖像画が何枚も収録されているが、それを描いたのはゲインズバラ、レノルズ、ロムニーなどの当時の代表的な画家。その一方で、ギルレイ他の諷刺(ふうし)画の素材にもなっている(あまりにも品がないので唖然(あぜん)としてしまうが、これはイギリスの諷刺画の王道である)。

この女性メアリ・ロビンソンはまさしくスキャンダルの宝庫であった。その不倫の相手として有名なのは、まず第一に、当時の皇太子(のちのジョージ4世)。彼女はこの皇太子からの恋文を使って、お金を脅し取ろうとした。別の不倫相手タールトン中佐は、アメリカの独立戦争の折に重要な働き方をしたイギリス軍の将校。以下は省略、列挙しだしたらきりがないのだ。

省略するわけにいかないのは、こうした関係を世の人々が知るようになった経緯についてである。18世紀末のロンドンでは、「毎月初め、書店には月刊誌の新刊がずらりと並ぶ。『タウン・アンド・カントリー・マガジン』誌は、発売をつねに心待ちにされていた雑誌であった。多くの読者がまず読むのは、『ご両人(テタ・テツト)交情史』という欄であった。(中略)それは一八世紀においては、パパラッチのスナップ写真と大衆紙(タブロイド)の種々の噂話を組み合わせるという現代のやり方に最も近似した手法である」。

現代の週刊誌、スポーツ新聞、テレビ等のゴシップ記事の原点はロンドンにありということか。

なお、彼女は詩や小説や自伝も書き、思想家ゴドウィンや詩人コールリッジとも接点を持ち、フランス革命を支持し、反奴隷制度の詩を書き、女性の権利を訴えもした。18世紀末の美しい舞台役者でもあった彼女の見事な評伝である。

(青山学院大学教授 富山太佳夫)

[日本経済新聞朝刊2012年5月20日付]

パーディタ――メアリ・ロビンソンの生涯

著者:ポーラ・バーン.
出版:作品社
価格:3,990円(税込み)

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